ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

ゆめうつつ

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『あぁ、急がなくては!』今日は満月の夜だ。
石段には桃色の椿の花がたくさん敷き詰められていた。
もうすぐ『ゆめうつつ』が生まれるのだ。
私は風呂桶いっぱいにミルク風呂を涌かした。
甘いミルクの匂いが鼻腔をくすぐる。
更に蜂蜜をたっぷり入れ『ゆめうつつ』の誕生を待った。
『ゆめうつつは』人の睡眠時間が一生分の1/3を越えると生まれるとされている。
つまりは人生の1/3の更に1/3。
その間に『ゆめうつつ』は人の夢を食べながら成長していく。
私の仕事は『ゆめうつつ』の誕生を見守ることと保護。
更に『ゆめうつつ』の誕生により予測される人の寿命の管理だ。
まぁ、誠に不服だが人間には『死に神』などと呼ばれている。
死に神』は私とは別の部門である。
どちらかというと『お迎え』なのだが・・・まぁ、そんなことはどうでもいい。人間達には関係のないことだ。
椿の花が落ちてから3時間経った頃、太陽が地平線から顔を出し見事な朝焼けが東の空に広がった。
夜が明け夢現の人間達のひたいから『ゆめうつつ』のタマゴが生み出される。
私はそれを慎重に拾い上げひとつひとつ桃色の椿の花の中央に包み込んだ。
それを木箱にしまい、年月日時間とそのものの名前を記入する。
何人もの人間からタマゴを回収し、涌かしておいたミルク風呂にそっと椿の花ごと沈める。
甘い蜜とミルクの匂い。
『ゆめうつつ』が発する椿の香り。
柔らかな花びらに包まれながら、『ゆめうつつ』のタマゴの表面に一筋のひびが入った。
ちいさなくちばしで内側から殻を破りミルクティーのような匂いがした瞬間、『ゆめうつつ』は卵からかえった。
『ゆめうつつ』はとても小さく人間の世界で言う『ひよこまんじゅう』のような鳥の形をした生き物で、人によって色や鳴き声がちがう。
好物は『夢』で漠(ばく)と同じようにを食べて成長する。
すべての『ゆめうつつ』が孵化し終えた頃、私はコットンキャンディーを空色のティーカップに詰めて、『ゆめうつつ』を一匹ずつカップの中に入れていく。
美しい音色で『ゆめうつつ』が鳴いている。
全ての『ゆめうつつ』をカップに移し、木箱に並べ、自転車にくくりつけて私はまた『ゆめうつつ』を人間に返却しに行った。
『ゆめうつつ』は眠っている人間の『夢』を食べる。多くの人間が『夢』の一部しか覚えていないのはそのためだ。
『ゆめうつつ』は食べた人間の夢により、姿を変え、寿命をかえる。
例えば、『ゆめうつつ』の誕生時計算上はあと70年生きるとしても、悪夢ばかり見ていると『ゆめうつつ』が凶悪になり、夢ごと魂を持って行かれ早く死んでしまう。
そうすると、『死に神』がゆめうつつを捕獲し、処刑する。
いい夢ばかり見ている人間は長生きで、『ゆめうつつ』も凶悪にはならないが、長年生きていく内に衰弱していく。
『ゆめうつつ』の命が尽きると人間も死んでしまうので、私が『お迎え』に行き、『ゆめうつつ』が命尽き灰になったあとに残る『ゆめうつつ』の両目を回収する。
人間の魂は『ゆめうつつ』の目玉の中に吸収され、様々な光を放ち、美しい。
私はそれを持ち帰り、月光の降り注ぐ滝壺にひとつひとつ沈めていく。
月の満ち欠けが一周した頃になるとそれは輝きを増し、自ら下流へと流されていく。
そして、再び生まれ変わり『ゆめうつつ』の目玉となって戻ってくる。
下流へと流れる姿は、何度見ても美しい。
水の中を色とりどりの蛍がふわふわと泳いでいるようで、柔らかな光が川底を明るく照らし、川を幻想的な色合いにする。
流れていく際、川底の石に当たって涼やかな風鈴のような音が響く。
(りん、りりん)
私はその瞬間が一番好きだ。
だから私は『ゆめうつつが死に神に処刑されませんように』と願いながらいつも見送る。


久々にお話を書きました。
思いつくまま、キーボードの気が向くまま。頭の中の考えがめぐるまま。
ゆめうつつは美しい鳥のような生き物、瞳はガラス玉のようで成長したものはペリカンのようだったりクジャクのようだったりフラミンゴのようだったり様々・・・全部妄想だけどね。
楽しかった。
こう言うわけわからないのを書くことが一番好き。