ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

小話:犬と私

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かすかな物音に振り返る。
黒い柴犬のような犬がこちらをじっと眺めていた。
私は犬が苦手なので、犬から視線をそらし足早に立ち去ろうとしたその時。
「おい、そこの人間。毎日この道を通るが散歩コースなのか?」
犬がいる方向から声が聞こえ、私は耳を疑った。
「え?」
振り返るが、誰もいない。
犬と視線が重なる。
「まさか・・・空耳だよね」
「いや、空耳じゃない!おれだ!」
犬の口が動いた!私は驚いてしばし呆然とする。
「まったく、これだから人間って奴はめんどくさい。自分が認められないことは何でも超常現象だの心霊現象だの訳のわからん理屈で説明しようとする、あぁ、そこの人間、お前も今自分の頭がおかしいとか夜だから幽霊の仕業だとか思ってるんじゃないか!?」
私は流ちょうな人間語、しかも日本語に驚きつつもにコクコクと頷いた。
黒い犬は更に続ける。
「お前の頭がおかしいんじゃない、このおれ様がトクベツな犬なのだ!」
「はぁ?」
私は犬の言葉にあきれた。「おれ様」って・・・そして、無性に笑いがこみ上げてきた。
しかし「おれ様」に悪いような気がして肩をふるわせ、こらえた。
「いつもは人間におれがしゃべれることは内緒にしているんだ、色々とめんどくさいからな。飼い主も知らない。それがなぜお前などにこの秘密を話したかわかるか?」
「や・・・わからないけど・・・」
私は内心、《わかりたくもねぇよ》と思いつつ、ふん、とえらそうな顔をする犬の鼻先を見つめた。
「では、教えてやろう!おれはお前のことが好きだ!」
そう言えば、先ほどからしっぽがふりふりと振れている事には気が付いていたが無視していた。
犬がしっぽを振ると言うことは、相当好いている証拠だ。
私は後ずさりしつつ。
「あの、私犬嫌いだし、無理!」
「あ~!これだから人間は!まったく、おれがお前の嫌がるようなことをしたか?かみついた?ごはんを横取りした?ひっかいた?どれもしていないだろう、毎日君の散歩を見つめていただけだ!」
犬なのであまり表情が読めないが、少し照れくさそうに言った。
「散歩じゃなくて、会社の帰りです!確かにあなたが私の嫌がることをしてはいないけど、犬は苦手なんです」
「苦手なら、少しずつ好きになってくれればいい君を・・・・・・愛している」
・・・・・・犬に告白をされた。
私は再び呆然とした。
犬ははっとして私に背中を向けてお座りをし、ぼそぼそとつぶやいた。
「・・・それは、その・・・まぁ、そう言う意味だ。おれ様は人間が大好きなのだ」
「はぁ・・・」
私がため息をつくと、犬は背中を向けたまま顔だけをこちらへ向け上目遣いに私を見つめた。
茶色い瞳が街灯でキラキラ輝いていた。
照れていてもしっぽは振っている。
まったくわかりやすい。
「わかりました、じゃあまた明日来ます」
私がそう言うと、犬のしっぽの振りは最高潮に達した。

翌朝。
私は、嫌がる弟と一緒に昨日の犬のところへ出かけた。
私を見つけると、犬は嬉しそうにしっぽを振る。
「おはよう」
そう言う犬の顔は笑っているように見えた。
「おはよう」
私もほほえんで声をかける。
弟はそのやりとりをぽかんと見つめる。
「ね、しゃべるでしょ」
弟に言うと、犬は弟にもしっぽを振った。
「思った通り」
私はほくそ笑む。
「今日はね、あなたに会わせたい人が居たから一緒に来たの」
犬のキラキラした茶色の瞳が私を見つめる。
「誰だ?」
弟の後ろから、呼び出すとおそるおそる黒い犬に近づいた。
ウチの柴犬「チロちゃん」である。
黒い犬はしっぽを絶好調で振り続ける。
「おれ様、お前よりこの子がイイッ!」
しっぽを振りつつキラキラ輝く瞳の黒い犬は私を見つめた。
私はあきれつつも、犬を見つめつぶやいた。
「だと思った・・・絶対、チロちゃんの匂いでめろめろなんだろうなってさ」
弟が状況を把握できないようなので、これまでのいきさつを話し、最後にこう付け加えた。
「・・・つまり、犬嫌いの私が唯一触れる犬と言ったらチロちゃんしかいないでしょ、チロちゃんはめす犬でその匂いが私についてたからこの子が私に惚れちゃったって訳」
2匹を見つめるとチロちゃんは多少迷惑そうに、黒い犬は嬉しそうに匂いを嗅ぎ会っていた。

おしまい。

設定、構成、その場しのぎ。
あらすじを運転中に思いつき頭の中がぐるぐる。
ひさびさのショートストーリーでした。
これといったはちゃめちゃどんでん返しでもなく、今回は先読みできそうなストーリーでしたね。
たまにふっと浮かんでは消えるお話を書き留めることができるとショートストーリーが更新されるわけですね。
書くお話が丸くなりましとさ。
以前みたいにとんがったのを書くととてつもなく消耗するのでめんどくさくて書けませぬ。
楽しいんだけどね~とんがったのも。