ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

71.誘蛾灯

『パチン』と虫が燃え尽きる音。
その一瞬でひとつの命が消えてるのかと思うと、僕は不思議でしょうがなかった。
誘蛾灯にこびりつく虫の残骸はかつてそれが命であった痕跡なんて全くなくて、ただの灰に近い残骸になっている。
ただの汚いモノ、そんな認識しかない。
僕の、近しい人が死んだときもそうだった。
死にかけてたときは、あんなに愛しかったのに、死んでしまえばただの肉の塊。
涙が止めどなく溢れたのは、きっと愛しい者を失ったからで、その肉の塊の所為ではなかたんだ。
また、虫の燃え尽きる音。
僕の愛しい人も、あんな風にして死んだ。
頭の血管がイかれて、それであっさり死んだ。
僕も死んだら、あんな残骸みたいになるんだろうか?
道ばたに転がった、猫の死体の様に次々車に轢かれて、跡形もなくなる。
そんな風になるんだろうか。
それでも良い。
ただの肉の塊になって、残骸になって、僕の居た痕跡は跡形もなく消えてしまう。
それがいい。

誘蛾灯はまた、命を残骸に変える。
僕の誘蛾灯は何処?
誰が僕の命を残骸に変えるの?
早くしてよ。

僕を誘いだして。

いつもみたいに笑いながら、冷ややかな目をして。
僕を誘いだして。
そして、僕を灰にさせて。