ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

52.真昼の月

俺は初めて本気で人を殺そうと思ったのは、中学1年生の頃だった。
俺はかの有名な幼女連続殺人犯と同じ名字で、何かにつけてクラスメイトはそのことで俺を馬鹿にした。
そして、給食の時間俺の隣で配膳を待っていた男子生徒が俺に向かって言った。

「宮崎ってさ、人殺しと同じ名前だよな?」

俺はいい加減、苛々して彼の言葉を無視し続けた。彼は俺よりも背が高く、俺は見下ろされる形になる。
さらに、彼の言葉はエスカレートした。いったい俺のどこが気にくわないんだ!

「お前さ、実は親戚とか何じゃないの?お前もそういう趣味なんだろう?」

フォークとトレイを手に持ち、俺は聞かない振りをしていた。いい加減うんざりする。
苛々して、呼吸が荒くなる。

「お前も、人殺したりな・・・」

俺は切れた。

「あぁ、お前のその減らず口を早く直さないと、俺もあいつと同じ殺人犯になるな。」

俺は、咄嗟に手に握っていたフォークを彼の頸動脈に押し当てていた。俺の顔が、殺人犯のそれになっていただろう、と、思う。おそらく、彼は俺の顔からただならぬ雰囲気を読みとったのだろう。顔はこわばり、身動きひとつとらなくなった。

「俺をあいつらと一緒にしないでくれ、俺はお前らみたいな猿並の脳味噌しかない奴と居たくない」

俺は、握っていたフォークから力を抜くと、自分の席へ向かった。
教室中が騒然としていたのだけは、今でも鮮明に覚えている。


月が出ていた。
今は昼の1時半過ぎ、真昼の月ってやつだ。
行き場のない俺の肉体は、照り返しの激しいアスファルトの上をさまよう。遠くの地面には、陽炎で水たまりができたようになってる。
並木道、冬なのに思ったよりも太陽がまぶしくて、目を閉じる。
吐き気がする。何度も同じ道を通って、何度も同じシーンを思い出したが、今と同じくらいに衝撃を受けたのは、そのシーンを初めてみたときだった。
もう、歩けない。
フェンスに手をかける。
あと少し、もう少しだ。もうすぐだ。まだまだ僕は駄目にはならない。
ゆっくり自宅への歩を進める。
自宅に帰ったら、学校に電話を入れろと言われたが、無理かもしれない。
もう、家に着くので精一杯だろう。
僕はそのまま倒れた。
けれど卒業式は続行されたらしい。
別にそんなことどうでもいいのだけれど、僕の様子は真昼の月が見ていた。