ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

47:ジャックナイフ

結局は僕の所為じゃないか。全て、俺がやったことだったようだ。
嘉嶋悠木の死、嘉嶋柚木の復讐。俺が先読みできなかったから、起きた悲劇だった。
嘉嶋柚木があのとき死んでいたら、嘉嶋悠木は死ななかったし。
俺が嘉嶋柚木に復讐され追い回されることもなかったはずだ。
俺は死んだんだ。公式にはこの世に存在しないが、しかし、俺は生きている。
嘉嶋柚木を殺しかけたときの俺のまま、俺は嘉嶋柚に追い回され、奴をもてあそぶ。
嘉嶋柚木は俺があのとき奴を切り刻んだジャックナイフで、俺を切り刻もうとしている。
走る。
暗闇の中をひたすらに。
嘉嶋柚木が気づかぬよう、嘉嶋柚木に追いつかれぬよう。
俺は、医学生の頃、女を犯し殺したことがある。
その話は別の場所で語られているが、俺は、まだ捕まっては居ない。
そのときは・・・だ。
一回だけ、嘉嶋柚木の姿を見たことがある。
3年ぶりで大分男らしく成長はしていたが、まだまだガキって感じだった。
奴はナイフを俺に向けがむしゃらに走ってきた。
俺はそれを紙一重で買わして、奴が地面に倒れるのを待ち、後ろから馬乗りになった。
嘉嶋柚木は苦しげにもがき、俺から逃げようとしていた。
俺は奴のシャツを切り裂き、移植された左腕をあらわにした。
自分でも分かるほど、いやらしくほくそ笑む。
奴は、やはり逃げようとがむしゃらに俺を振り落とそうともがく。
俺はむかついて後頭部を一発殴ってやった。すると嘉嶋柚木はおとなしくなり、地面に突っ伏したまま動かなくなった。
それだけだ。俺は何もする気はない。
嘉嶋柚木を近くの公園まで連れて行くと、奴の右手に紙飛行機のように折った手紙を差し込むとその場を立ち去った。
そのとき右手に握られていたジャックナイフは、俺が没収しておいた。
これは、嘉嶋柚木と俺を繋ぐ大事な資料なのだ。
俺は嘉嶋柚木の頬にまるで恋人のようにキスをした。
綺麗な肌。少年のような寝顔。
奴をこのまま楽にするのはもったいなさすぎた。
嘉嶋柚木はこの美しい顔を、もっと苦痛にゆがめなくてはならないのだ。
俺のために。
俺は義眼の左目を鏡で見た。
嘉嶋柚木が唯一俺から奪えたものだった。
俺はそれをいとおしく思い、軽く指で触れてみた。
俺の中でまた、ナイフが鋭く光った。