ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

2.きょうだい(自由変換)兄弟

俺が初めて古都治の存在を知ったのは、小学6年の頃だった。古都治は中学2年。その出会いは偶然ではなかった。
あいつは小学校の前の公園の箱ブランコに乗って、俺がでてくるのを待っていたらしい。どうも、母親から腹違いの弟がいると聞いて興味を持っただけらしかったが、何も知らない俺にとって、兄貴が急に現れるという事態は、どうしても避けるべきだったんだ。
けれど、両方の母親がそうしなかった。
それは二人が会うべきしてであったと言うことなんだろうと、幼いながらに俺は理解したものだ。
あいつは第一声俺にこういった。

「よぉ。ブラザー!」

俺が面食らっていると、あいつは勝手に続けた。

「映画みたいだろ?一回でいいからそんな台詞言ってみたかったんだよな。どう?言われた方は?映画みたいだろ?」

俺は、こいつの言ってることが理解できなかった。映画?なんの?ブラザー?

北野武か?」

当たっているが、遠い台詞を吐いていた。たぶん、相当混乱していたんだろうと、思う。

「ん~・・・君はよくわかってないみたいだね、葵春君。君が、俺の弟だって事、腹違いだけどね。ほら、目つきとか、唇とか似てて、もてない?」

わざとしゃがんで俺に目線を会わせる古都治に苛立ちを覚えながら、俺は、問うた。

「確かに、俺、お父さんはいないけど、兄貴がいるってのは初耳だぜ?」
「はぁ?まじかよ?で?どうする?」
「どうも何も、母ちゃんに話すしかねぇだろ?」
「俺の母ちゃんは知ってるけど、お前の母ちゃんは知らないの?」

俺の顔に古都治の手が触れる。優しく愛撫するような手つきだったが、俺は気にせずに話を進めた。

「お前、なんて名前?俺は松谷葵春。」

古都治の唇が俺の耳元に近づく。そして、息がかからんばかりの近距離でつぶやく。

「俺は、松谷古都治、お前、キレーな肌してんな。」

俺がぼうっとしていると、古都治の唇が俺の唇と重なった。
とたん俺は、古都治を突き飛ばして、押しのけた。

「へ・・・変態!やめろよ!気持ち悪い!近づくな!!」
「ってーなぁ・・・お前があんまりキレーな肌してんから、食いつきたくなっただけだよ・・・それに誰
にでもあんなカワイー顔見せたら、襲われるぞ」

にこりと笑うその顔は、写真の父親に似ていた。焦げ茶色の瞳、焦げ茶色の髪の毛、全てが父親にそっくりだった。
けれど、俺は母親にらしい。金に近い茶色の髪に、少し色素の入った群青色の瞳。顔のパーツだけが父親とそっくりだった。

「本日のしゅうかーく!葵春の初チュウを奪った事ー!」

古都治は喜んで去っていった。しかし、俺にとっては最悪の兄弟初対面だった。