ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

50.葡萄の葉

葡萄棚の下を駆け抜けている人影。
黒地に金の竜の刺繍入りで裏地の赤い着物を着た、短髪銀髪の赤い縁のゴーグルの男。
身の丈は、170を優に越え、右手には赤い釘バットを持っている。
それを追うのは、臙脂の羽織を袖を通さずにはおり、白地に銀の虎の刺繍入りの黒い裏地の着物を着た、派手な眼鏡の男。身の丈は、釘バットの男よりも低く髪は赤みがかった金色。
そして右手には、特大サイズのモンキーレンチを持っている。
釘バットの男が、葡萄棚の上に飛び乗る。
それを追いかけ、同じく葡萄棚に飛び乗るモンキーレンチの男。
葡萄棚の上で待ちかまえていた釘バットの男が、モンキーレンチの男に向かって、殴りかかる。
それをよけつつ、モンキーレンチを振り回し応戦。
お互いに、にやっと笑う。
強いやつがいれば、それだけ楽しい。
・・・バトルマニア。まさにそんな言葉に似つかわしい笑い方だ。
「よぅ、遅かったじゃねぇか、海田鉄人。武器が重すぎるんじゃねぇか?」
釘バットの男が、モンキーレンチのおとこ。海田鉄人に向かってからかうように言った。
海田鉄人も、笑う。
「山本遙、あんた逃げ足だけは早いな。思ってたより、チキン野郎なんだなぁ。」
釘バットの男、山本遙は少しむっとしたようだったが、すぐにゴーグルのレンズの奥の金色の瞳からから強い視線を向ける。
それを見つめ、海田鉄人は、その赤みがかった金色の瞳を山本遙に向ける。
「培養器育ちがぁ、生意気にそんな顔してんなよ。オレンジ色のあのガキがそんなに大事か?お前が、俺達の証である鬼の角を折ったあのガキが。しかもあのガキ、お前等が生まれた研究所の実験動物だったって言うじゃん。それで、片目。無くしたんだろう。まったくばかげてる。」
鉄人の言葉に、遙は、にやっと笑う。
「ンなこと、かんけーねぇんだよ。梅が片目を無くそうが、角折ろうが、俺ぁあいつの親友でいたい。てめぇみてぇな、サイコ野郎に梅ぇ渡すわけにゃあいかねぇんだよ。」
「あぁ、お前見てると、昔見かけた番長を思い出すよ。俺は、そう言うのみてると虫酸が走るね。」
遙は笑う。
「同感だぁ、俺もてめぇみてぇな野郎みてると、虫酸が走る」
と言うが早いか、赤の釘バットが鉄人の脳天めがけて振り下ろされる。しかし、中型のスパナで、バットを払いのけ、次は、特大サイズのモンキーレンチが遙の脇腹めがけ飛んできて、クリーンヒット。
地面を転がる遙。
飛び散った血を袖で拭う鉄人。
「知ってるか?血の色は、赤だけじゃないんだぜ?色んな色があるんだ。」
ヨロりと、立ち上がる遙を見下げながら、続ける。
「赤、茶、真紅、黒、ワインレッド、朱・・・出血の量、箇所、そんなのによって、色が違うんだ。因みに、真っ赤な血が噴き出す瞬間が、俺は大好きだなぁ。」
くすっと、笑う鉄人を遙はにらみつける。それを見て、鉄人は笑みを崩さないまま続けた。
「なぁに、安心しろって、お前も、梅もしっかりちゃんとキレーに殺してやるから」
遙は、口元の血を袖で拭い、釘バットを構える。
「てめぇはしらねぇだろうが、俺達試験管育ちは、いわば、改良された鬼なんだ。だから、てめぇらには出来ねぇよな、芸当が出来るってわけよ。つまり、この釘バットを本物の鬼の金棒にしたり・・・」
遙かの金色の瞳が、さらに光る。すると釘バットの形状が、見る見る変形し、鬼の持っている金棒へ変じた。
「ふん、所詮子供だましだろう。養殖鬼の分際で。」
「試して見ろよ、俺にゃあ梅の系列の血が混じってるんだよ、つまり正統なる赤鬼の息子。」
「養殖鬼の風情が、そんなことまで知ってるのかよ。世も末だな。」
そう言うと、鉄人は、構えていたレンチを治め、遙に背を向けた。
「まぁったく、なんかやる気なくなっちゃったなぁ・・・俺帰る。あの女桜に宜しく。それに、梅は返す。」
「ま、待てよ」
鉄人はそのままあっさりと引き下がっていった。