ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

79.愚者にはなれない

装弾数は8+1発あいつをやるには十分だ。それと道ばたの死体から勝手に拝借した、ニューナンブとグロッグ。
愛用の銃は、コルトダブルイーグル、俺が持つにはでかい銃かもしれないけど、あいつが俺にくれた唯一役立つものだった。
だから今も使用している。
ただ、あいつと同じコルト社の銃を使ってるのが気に食わないけど。
頭の中でシュミレートを繰り返す。
引き金を引いて、最後に笑うところまでシュミレートをした。
その時、背後から物音がした。
俺は銃口をそちらへ向けながら振り返った。
やはり、あいつだった。
黒いyシャツに、黒のパンツとジャケット。腰に黒革のホルスター。眼鏡の縁はいぶし銀色で、髪と瞳は俺と同じ焦げ茶色。観察すればするほどむかつく。
背後から忍び寄ればいいのに、ワザと俺に気が付かせようと物音を立てたのだろう。
笑っている。
俺も、いつもの癖で皮肉っぽく笑い、口を開く。
「やっとボスのお出ましか?」
その言葉に、横向きのまま腰に手を当てて、眼鏡の奥から俺を上目遣いに睨んでくすっと笑った。
俺の嫌いな表情だ。
「ボス・・・」
俺から目を離し、床を見つめたままため息をつく。
その隙に、腿のホルスターから、グロッグを抜く。
「ボス・・・久しく聞いてなかったな、それに君は、銃を二丁も持って、本気なら今の内僕を撃てばいいのに」
「余りの感動で忘れてたんだよ」
皮肉を言ってやる。
奴は笑って、両手を広げる。
「撃ちなよ、それが、君の望みだろ?ただ、ひとつ、君に忠告して置くけどこの教会にはあいつの大好きな爆弾が仕掛けられててね。残念ながら、起爆装置と解除装置を持ってる人物が何処にいるか、僕しか知らない。さらにもう一つ残念なお知らせ。もし、爆弾が起動したら君の弟も巻き添え喰うよ。」
俺を見つめたまま奴はさらっと言葉を吐きだし、俺の表情を読んでいた。
なれてる、あいつに表情を読まれるのは。
だから動揺を隠す。
簡単なことだ。
「何処だ・・・?」
奴は笑っている。
「爆弾は、何処だ?」
爆弾なら俺にだって解除できる。
「爆弾をどうする気?あいつの作った爆弾を君が解除できるの?」
「するしかない」
また笑う。
腹が立つ。
「でも、僕は口を割らないよ?」
「割らせるさ」
俺は走って、奴の間合いに滑り込む。
勝ち誇ったように笑っている。本当に腹が立つ。
グロッグと、ニューナンブの引き金を交互に引いた。
瞬間、奴の左手が、俺の腕に当たってニューナンブを吹っ飛ばす。
はずしたと思ったけど、俺の放った弾丸は奴の右腿の肉をわずかに剔ったみたいだった。
間髪入れず、俺はグロッグの照準を奴の眉間に合わせる。
奴も奴のコルトガバメントを俺の眉間に照準を合わせて居るようだった。
一瞬の沈黙。
にぃっと奴が笑う。
チェックメイト
「どっちがだよ」
俺もにぃっと笑ってやる、そして、左手で腰ベルトにしまってあったサバイバルナイフを持ち出した。
そしてそれをワザと足下に転がす。
奴の視線がわずかにそちらへ移動した瞬間、ガバメントの照準から抜け出し、木のイスの後ろに潜り込む。
さっき、ガバメントで殴られた左手がもの凄く痛かったけど、あえて目を背けながら、自分の中の五感をとぎすまさせる。
ゆっくり、物音を立てないように聖堂を歩き回るわずかな足音が、鼓膜を揺さぶる。
俺も音を立てないように、ゆっくりと移動する。
ステンドグラスのわずかな灯りに、奴の影が映る。
俺は、イスのスキマから少しだけ頭を出して、奴を狙って一発、二発。
多分、右腕にしか当たらなかった。
上等。
奴は俺の撃った弾の弾道から、俺の位置を探し感で撃ってきた。
木のかすが俺の頬を傷つける。
またゆっくりと移動。
「みぃーつけたv」
奴の声。
今度はピンポイントで、俺を狙撃してくる。
俺は奴の場所を目で探す。
目の前で赤い液体が飛び散る、血だ、右腕を弾丸が貫通したらしい。
痛みで、俺はグロッグを床に落としてしまった。
また狙撃、今度は目視できた。
祭壇にいる。
畜生。
弾丸の雨。
左脇腹を剔る。
右手をかばいながら、木製の壁を背に左手でコルトダブルイーグルを構える。
手が震えて照準が定まらない。
畜生、動け。
ゆっくりと奴が近づいてくる。
ガバメントを構え、笑っている。
手に、力が入らない。
明らかに出血の所為だ。
目がかすむ。
息が苦しい。
奴が目の前に来て、構えたままの俺の左手をけ飛ばして銃を吹っ飛ばした。
もう、終わりかよ・・・結局俺は、奴に勝てないのか。
「急所は、はずしたつもりなんだけど・・・ちょっとやり過ぎちゃったみたいだ」
珍しく奴が苦笑する。
俺も口元だけ笑ってやる。
「ちょっと・・・所じゃねぇ・・・よ。」
苦しくて、呼吸が荒くなる。
それなのに空気が入ってこない。
多分、左脇腹をやったとき肺に傷が付いたのかもしれない。
今更、死ぬのなんて怖くなかった。
「ゴメンね、楽しくなると、ついやっちゃうんだ」
何も答えられない。
「ねぇ、お詫びに教えてあげるよ、あいつの居場所。パイプオルガンの裏側に通路があって、そこから別室に繋がってる。そこにいてモニターで全部観てるよ」
今更・・・無理だろう。冗談じゃない。
体が重くて動かない。まるで、天井ばっかり眺めて暮らしてたあの頃みたいだ。
でも、今は違う。
教会の片隅で、木製の床に血を染みこませながら死を、待っている。
俺に似合わない最期。
あぁ、もう、目も見えない。
何も、見えない。
奴が立ち去って、俺は目を瞑った。
天国は遠い。ここに天国はない、神様も居ない。
待っているのは、死という現実のみ。

89.みえないへ続く