ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

48.熱帯魚

極彩色の魚の中に、一匹だけ、黒い金魚が泳いでいた。
その金魚は、極彩色の中なので、他の魚たちと一緒の時は自分のことをトクベツだとは思わなかった。
しかし夜が来ると、黒い金魚は暗闇と一体化して、他の魚たちの中から姿を消した。
消した、と言う表現は間違いかもしれない。
暗闇に飲まれて、見えなくなってしまったのだった。
魚は泣いた。
「僕をみつけて、僕を見逃さないで、僕を独りにしないで」
夜、暗闇に飲まれて、魚は泣き続けた。
でも朝が来れば、魚はいつもと変わりなく暮らした。
極彩色の魚たちの中で、自分も普通の魚として暮らした。
けれど、夜が来るのが怖くて、怖くて仕方がなかった。
いつか、夜に飲まれて、暗闇の中から永遠に出られないのではないか、と考えたからだ。
きらきら光る空を眺めながら、魚は考えた。
どうすればいいか。
魚は太陽を目指した。
焼かれるような太陽を。
光を、温もりを。
自分の存在理由を。
たとえ、太陽に焼かれて死んでも、そこに光や温もりが無くても、それは認めてはいけなかった、諦めたくなかった。
いつも自分の求めているものが、そこにあると信じていれば、何かが変わると、夜が来て暗闇に飲まれると言うことも、怖くなくなるはずだと信じていた。
黒い金魚は、極彩色の世界を棄てて、太陽を目指した。
全てを信じていた。