ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

80.ベルリンの壁

私が小さかったから、いつの事だか覚えていない。
確かに、ドイツを半分にわけていたその壁が破壊されている映像はよく覚えている。
国旗を背負い、半裸で、ハンマーを壁に叩きつける青年。
その壁を越えることは、死を意味していた時代の終焉。
そんな事言ってる、私は、そのことについて何も知らない。
今日は、そんな壁の如く私の周りに巣くう高い壁の話をしなきゃならない。
考えただけで、鬱になってしまうような話だ。

お風呂で、昨日作ってしまった腕の引っ掻き傷を見て、思わず甘噛みした。
甘い血の味がした。
微笑む。
甘がみしたから、そこだけ肌の色が違う。
うっすら桜色。
馬鹿らしい、何もかもが馬鹿らしい。
頭から冷えたシャワーを被りながら、まるで修行僧のようだ。
頭の中を空っぽにしようとしたけど、自分を追いつめる声が、それを許さない。
意地の悪い笑顔。
薄桃色の薄めの唇に、賢そうなのに人を見下した瞳。それ以外の印象はない。
息を止めて、ぎゅっと自分を抱きしめるように自分の腕を掴んだ。
寒いよ。
自分の表面を流れる水は、自分の体温をどんどんと奪っていったようだ。
鉄臭い血の匂い。
そんなに鉄が含まれてるのかな、この匂いは鉄棒並みだ。
小さい頃、鉄棒の匂いを嗅いだときと似た感じの匂いがした。
鼻の奥につんと来る、金属的な香り。
瞼の上を、冷たい水が滴り落ちる。
自分の中にある防御壁は、ベルリンの壁よりも高く警備も厳重だ。
乗り越えようとすれば、たちまち撃ち殺されてしまう。
書き込まれた落書きは、自分への戒めと、罵声。
シャワーを止めて、犬のように頭を振った。
水が飛び散って、壁に叩きつけられる。
瞼を開き、立ち上がる。
このまま進めば、嫌な予感がする。
安全装置をはずして、こめかみに銃口を充てて、引き金を引くだけ。
後は9个涼憧櫃自分を制御してる組織を吹き飛ばすのを待てばいい。
壁を乗り越えた代償だ。
木目の床に、広がる真っ赤な血液。
世界を浸食するように。
自分を浸食していたものが、壁の崩壊で全て外に流れ出した。