63.でんせん(漢字は自由)伝染
悪意は、伝染する。
雨が降っている。
秋の、冷たい、染み渡るような雨だった。
あたしは昇降口から出て、薄暗くなった空を見てため息を付く。
朝の天気が嘘のように、雨が降っていた。
薄暗い道を、半ば諦めながら雨に濡れて、歩く。
冷たい雨が心地良い。
近道をするために、公園にはいる。
ふ、と顔を上げると、木の陰に、男と、女が抱き合ってるのが見えた。
あたしは見ちゃいけないものを見てしまったかのように、こそこそと、走る。
しかし、あたしは、その男と目が合ってしまった。
深く、透き通った青緑色の目をした男。
服も、髪も黒いのに、肌は真っ白で、目は透き通った深い青緑色をしていた。
「真下・・・秀?」
あたしは、無理矢理視線を引き剥がし、家路へ向かう。
やっぱり見てはいけないものを見てしまった。
でも、本当に、真下秀だった?あいつ、あんな目の色してたっけ?
次の日、その公園で、殺人事件が起きたというニュースが、テレビの画面から流れていた。
学校も、自分の学校の生徒が亡くなったと大騒ぎになっていた。
そのおかげで、あたし達は午前中だけで返されることになった。
「ねぇ、真下、あんた昨日あの公園に・・・」
「何?」
眼鏡の奥で真下が、あたしを見つめた。
「壬原はあの公園で、俺を見たの?」
YESといえない理由があった。
なぜなら、あの公園で見た、こいつのそっくりさんは目の色が違う。
こいつの目は、黒曜石のように真っ黒で、綺麗な瞳だった。
「違う・・・真下に似た人を・・・見たの」
真下は、にっこり笑う。
この笑顔にあたしは弱い。
「じゃ、気のせいだ・・・だって、俺、昨日ずっと家にいたし、親が知ってるよ」
あっさり言う。
「そっか、ゴメンね」
「別にいーよ、ねぇ、壬原。今日って暇?」
「うん」
じゃあ、映画見に行こう。
と真下に誘われ、あたしはYESと答えた。
予定の時間より、あたしはだいぶ早く着いてしまった。
ぽん、と肩を叩かれ、振り返ると真下がいた。
「待った?」
眼鏡の奥から、やんちゃそうにのぞく瞳。
「ううん、今来たばっか」
にっこり微笑む真下。
果たしてこいつはあたしがこの笑顔に弱いことを知ってるんだろうか?
「行こう、俺、あれ見たかったんだ」
と、指さした先にあったのは、サスペンス映画の看板だった。
「えぇ・・・あたし・・・こういうの苦手・・・」
「嘘言うなよ・・・」
いつもより低くて、憂いを込めた声で呟いた。
いつもと違う声に、あたしはちょっと反応して、言葉が出なかった。
「じゃ、入ろう」
首を傾げながら、笑う。
あたしは、真下に手を引かれるままに、映画館へ入った。
映画の内容は所々しか覚えてない。
なんて言うか、ちらちらとポップコーンを取る振りをして、真下の横顔ばかりを見てしまった。
暗がりに、画面の光の反射だけで映し出される真下の横顔は、とても綺麗だった。
何回目か、ちらっと、のぞき込んだ真下の表情。
あたしは思わず息をのむ。
あの、昨日の男とそっくりだった。
目の色が違うだけ。
とっても怖い顔をしてる。
あたしが見つめていると、それに気が付いたのか、真下目が優しく変わる。
「ゴメンね・・・今のシーン、すげぇ、エグくなかった?」
「あ・・・うん・・・そ、だね」
「ねぇ、真下、あんた昨日、やっぱり・・・」
にこっと笑う、目だけ、あの男と同じ。
やっぱり・・・あそこにいたのは・・・。
「だったら、どうする?怖い?」
あたしは目をそらす。
真下も、画面に目を向ける。
「この映画は、昔の事件を元に作ってるんだよ。結構昔。」
真下の話が読めない。
あたしはただ聞いてるだけ。
「君に言うつもりはなかったけど、昨日の雨の中君と目があったときに決めた。君には話しておく。俺のことを」
気が付いたら、映画のエンディングロールだった。
エンディングロールが終わるまで、真下は、何も話さなかった。
呆然とする、あたしの手を握って立たせる。
「行こう、全部、話すから」
あたしは、何がなんだか分からないまま頷く。
「ねぇ、真下、昨日の雨の日、やっぱりあんたあの公園に・・・」
「居たよ、まさか君が通りかかるなんて思わなかった」
否定しない、あっさりと白状した。
そして、信じられない話を、話し始める。
「俺はね、死神なんだ。信じてもらえないだろうけどね、人を殺す神、死んだ人間の魂を吸い取って生きてる神。神様なんてたいそうなもんじゃないよ、どっちかってぇと、妖怪とか、亡霊に近い。」
「でも、真下・・・見えるよ?」
くすっと笑う。
「それだけの力があるから。俺は、あの映画の元になった事件と、そのあとの事件で沢山の人間の魂を奪ったから、今こうしていられるんだよ。人の前に姿を現すためには其れ何の力が必要だ、その力は動物の魂からしか奪えないものなんだ。俺は、沢山の人間の命で、生きてる。汚い存在だ。だから、今は悪党しか殺さない」
「えぇ・・・え?信じられないよ。だって、そんな・・・本当に、そんなのが居るの?真下って、だって、ちゃんと両親居るでしょ?それに、何で、そんなこと、あたしに話すの?あたしのこと、バカにしてる?」
違うよ、と呟いて、あたしの瞳を見つめる。
「じゃあ、証明してよ」
とあたしがやっとの事で吐き出すと、真下は少し悲しそうに、瞼を伏せる。
「証明しないと、駄目?君の前で動物を殺せっての?残酷すぎない?それに、君には見せたくないよ」
「じゃあ、あんたがあの時居た男だったら瞳の色を変えられるでしょ?」
ふっと頬が緩む。
真下が苦笑いしてる。
そして、しょうがないなぁ・・・と小声で言うと、あたしの頬を撫でた。
ボタンへ続く・・・
そして、真下はあたしに寄りかかりながら付け加えた。
「俺は、人の体に入り込んで、自分の力で悪意を伝染させることが出来る。それに侵された者は、人を殺して、自分も近いうちに悪意に支配されて死んでしまうんだ。そんな俺でも、良い?」
「別に、あたしの前では真下秀で居てくれればいいよ」
あたしは呟いた、本当は、真下秀以外の彼も見てみたい。
けど、多分其れは彼が許さないだろうって思ったから。
雨が降っている。
秋の、冷たい、染み渡るような雨だった。
あたしは昇降口から出て、薄暗くなった空を見てため息を付く。
朝の天気が嘘のように、雨が降っていた。
薄暗い道を、半ば諦めながら雨に濡れて、歩く。
冷たい雨が心地良い。
近道をするために、公園にはいる。
ふ、と顔を上げると、木の陰に、男と、女が抱き合ってるのが見えた。
あたしは見ちゃいけないものを見てしまったかのように、こそこそと、走る。
しかし、あたしは、その男と目が合ってしまった。
深く、透き通った青緑色の目をした男。
服も、髪も黒いのに、肌は真っ白で、目は透き通った深い青緑色をしていた。
「真下・・・秀?」
あたしは、無理矢理視線を引き剥がし、家路へ向かう。
やっぱり見てはいけないものを見てしまった。
でも、本当に、真下秀だった?あいつ、あんな目の色してたっけ?
次の日、その公園で、殺人事件が起きたというニュースが、テレビの画面から流れていた。
学校も、自分の学校の生徒が亡くなったと大騒ぎになっていた。
そのおかげで、あたし達は午前中だけで返されることになった。
「ねぇ、真下、あんた昨日あの公園に・・・」
「何?」
眼鏡の奥で真下が、あたしを見つめた。
「壬原はあの公園で、俺を見たの?」
YESといえない理由があった。
なぜなら、あの公園で見た、こいつのそっくりさんは目の色が違う。
こいつの目は、黒曜石のように真っ黒で、綺麗な瞳だった。
「違う・・・真下に似た人を・・・見たの」
真下は、にっこり笑う。
この笑顔にあたしは弱い。
「じゃ、気のせいだ・・・だって、俺、昨日ずっと家にいたし、親が知ってるよ」
あっさり言う。
「そっか、ゴメンね」
「別にいーよ、ねぇ、壬原。今日って暇?」
「うん」
じゃあ、映画見に行こう。
と真下に誘われ、あたしはYESと答えた。
予定の時間より、あたしはだいぶ早く着いてしまった。
ぽん、と肩を叩かれ、振り返ると真下がいた。
「待った?」
眼鏡の奥から、やんちゃそうにのぞく瞳。
「ううん、今来たばっか」
にっこり微笑む真下。
果たしてこいつはあたしがこの笑顔に弱いことを知ってるんだろうか?
「行こう、俺、あれ見たかったんだ」
と、指さした先にあったのは、サスペンス映画の看板だった。
「えぇ・・・あたし・・・こういうの苦手・・・」
「嘘言うなよ・・・」
いつもより低くて、憂いを込めた声で呟いた。
いつもと違う声に、あたしはちょっと反応して、言葉が出なかった。
「じゃ、入ろう」
首を傾げながら、笑う。
あたしは、真下に手を引かれるままに、映画館へ入った。
映画の内容は所々しか覚えてない。
なんて言うか、ちらちらとポップコーンを取る振りをして、真下の横顔ばかりを見てしまった。
暗がりに、画面の光の反射だけで映し出される真下の横顔は、とても綺麗だった。
何回目か、ちらっと、のぞき込んだ真下の表情。
あたしは思わず息をのむ。
あの、昨日の男とそっくりだった。
目の色が違うだけ。
とっても怖い顔をしてる。
あたしが見つめていると、それに気が付いたのか、真下目が優しく変わる。
「ゴメンね・・・今のシーン、すげぇ、エグくなかった?」
「あ・・・うん・・・そ、だね」
「ねぇ、真下、あんた昨日、やっぱり・・・」
にこっと笑う、目だけ、あの男と同じ。
やっぱり・・・あそこにいたのは・・・。
「だったら、どうする?怖い?」
あたしは目をそらす。
真下も、画面に目を向ける。
「この映画は、昔の事件を元に作ってるんだよ。結構昔。」
真下の話が読めない。
あたしはただ聞いてるだけ。
「君に言うつもりはなかったけど、昨日の雨の中君と目があったときに決めた。君には話しておく。俺のことを」
気が付いたら、映画のエンディングロールだった。
エンディングロールが終わるまで、真下は、何も話さなかった。
呆然とする、あたしの手を握って立たせる。
「行こう、全部、話すから」
あたしは、何がなんだか分からないまま頷く。
「ねぇ、真下、昨日の雨の日、やっぱりあんたあの公園に・・・」
「居たよ、まさか君が通りかかるなんて思わなかった」
否定しない、あっさりと白状した。
そして、信じられない話を、話し始める。
「俺はね、死神なんだ。信じてもらえないだろうけどね、人を殺す神、死んだ人間の魂を吸い取って生きてる神。神様なんてたいそうなもんじゃないよ、どっちかってぇと、妖怪とか、亡霊に近い。」
「でも、真下・・・見えるよ?」
くすっと笑う。
「それだけの力があるから。俺は、あの映画の元になった事件と、そのあとの事件で沢山の人間の魂を奪ったから、今こうしていられるんだよ。人の前に姿を現すためには其れ何の力が必要だ、その力は動物の魂からしか奪えないものなんだ。俺は、沢山の人間の命で、生きてる。汚い存在だ。だから、今は悪党しか殺さない」
「えぇ・・・え?信じられないよ。だって、そんな・・・本当に、そんなのが居るの?真下って、だって、ちゃんと両親居るでしょ?それに、何で、そんなこと、あたしに話すの?あたしのこと、バカにしてる?」
違うよ、と呟いて、あたしの瞳を見つめる。
「じゃあ、証明してよ」
とあたしがやっとの事で吐き出すと、真下は少し悲しそうに、瞼を伏せる。
「証明しないと、駄目?君の前で動物を殺せっての?残酷すぎない?それに、君には見せたくないよ」
「じゃあ、あんたがあの時居た男だったら瞳の色を変えられるでしょ?」
ふっと頬が緩む。
真下が苦笑いしてる。
そして、しょうがないなぁ・・・と小声で言うと、あたしの頬を撫でた。
ボタンへ続く・・・
そして、真下はあたしに寄りかかりながら付け加えた。
「俺は、人の体に入り込んで、自分の力で悪意を伝染させることが出来る。それに侵された者は、人を殺して、自分も近いうちに悪意に支配されて死んでしまうんだ。そんな俺でも、良い?」
「別に、あたしの前では真下秀で居てくれればいいよ」
あたしは呟いた、本当は、真下秀以外の彼も見てみたい。
けど、多分其れは彼が許さないだろうって思ったから。