ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

2.階段

ニコラは毎日階段に座って、夜を明かした。
何日経っても彼は帰ってこない。
得体の知れない、妖怪のような、強盗のような奴に連れ去られてからずっと、レスタトはかえってこなかった。
何日も、その階段に座って彼の帰りを待ち、町中を探し歩いた。
けれど、彼の居た痕跡すらなかった。
何日も、何日もその階段に座って、自分を責めて、もう何も考えられなくなった頃、彼が帰ってきた。
いつもとは、違う彼。
ニコラは、少し動揺し、喜んだ。
心から。

其れなのに、彼はまた姿を消して、手を伸ばしても届かないところへ行ってしまった。
だから、ニコラはヴァイオリンを弾き続けた。
彼を待って、待って、待って、気が狂うほどに。
何も変わっていない、階段で待ってた無力な自分と、何ら変わってない。
涙も、何もない。
血が体を汚すだけ。
レスタトが階段を上がってるとしたら、ニコラは階段から落ちてる。
離れたくないと、願ってもいつも追いかけてるのは、レスタトの背中ばかり。
其処からは、何が見える?
魔女の処刑場で、まだ君は泣いてるの?
ねぇ、君の背を追っているのは疲れたよ、だから、僕を魔女の処刑場で焼き殺して。

少しだけ笑う。
微笑にも満たない。
炎の奥に消えていった、親友。
階段を転がり堕ちた、彼の結末。