ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

75.人でなしの恋

サックス・レリオットと、アリス・レノンは、一緒に住んでいる。
悪党と、その助手だから当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、俺がもっとも気に食わないのは、サックスとアリスがそれだけの関係じゃないって事だ。
確かに、アリスはとても綺麗だし、あんないい女と暮らしてたら、男が放っておく訳がないのも分かってるけど、何も、俺の目の前で、いちゃつくことはないと思う。
一度なんて、俺がいつも通り勝手にオフィスにはいると、そこでいちゃついてた。
俺はその時「殺すよ」と言ってにっこり微笑んでやった。
そうすると、サックスは香月と交換してしまった。
よほどばつが悪かったらしい。
俺は、其れが面白くて、何度か仕掛けてやった。
そして、ここからが本番だ。
僕とアリスが二人きりになったときのこと。

「ねぇ、アリス、やっぱりアリスは、サックスだけにそう言う顔するんじゃないんだね」
俺が笑うと、アリスは、いつものクールな表情に戻って、事務的に答える。
「愛想笑いって、必要でしょ?」
上目遣いに彼女を見て、柔らかく微笑む。
「何で、俺のこと、見ないの?」
「良い、松谷陽一郎君、あたし貴方みたいな子供に興味はないの」
「でも、サックスの本体は俺の3つ上なだけだよ、どこが違う?それに、あいつの中の人格で一番下の年齢なのは、一桁代だった気がするけど、アリス先生は、そんなことも、あんな事するの?」
「しないわよ・・・松谷君、ムダだから止めなさい。貴方には、あの人が居るでしょ。こどもがいるって、言ってたわよね」
「あぁ・・・。もうすぐ生まれるみたいだよ、家族だって」
あっさりと言える、自分に感心しながら、続ける。
「あまり興味ないけどね」
アリスの、赤毛がうわっと揺れる。とても綺麗だった。
「何故、そんな事言うの?」
深い緑色の瞳が、僕をのぞき込む。
「だって、興味ないよ、僕の遺伝子と、彼女の遺伝子を持った合成人間でしょ?つまらないよ」
彼女が笑う。
「そんな事言ったら、あたしだって合成人間だわ、良いから、早く日本に帰って、彼女と暮らしなさい。」
僕はそんなアリスの言葉に少し、寂しくなって、呟く。
「アリスは、僕のことを、追い出したいの?」
彼女は少しだけ目を伏せ、僕から目をそらす。
「違うわ・・・貴方が、彼女に取られたって感じてるの、馬鹿らしいわね。あたし、貴方になんて興味ないって思ってたし、今だって思ってるのに・・・」
僕は、その言葉で、とたんに機嫌がよくなった。
「そんなこと無いよ、馬鹿らしくなんてないんだ、当たり前の事じゃない?僕も、君のことを好きなんだ」
「駄目、駄目なんだ・・・あたしは、彼女から幸せを奪う事なんて出来無し、するつもりもない、良いから、貴方は、日本に帰って」
そう言うと、アリスは僕に背を向けた。
「ねぇ、アリス。馬鹿らしいのは、僕たちだよ。お互いに思ってたのに気が付かないなんて・・・」
「良いからでてって、早く!!あたしの前から姿を消して!!」
アリスの強い口調に、僕は押し出されるように、オフィスを去った。
次に僕がアリスと出会うのは3年後。
最後の仕事の時だった。
そして、古都治の弟が僕たちの手によって作られることになる。