ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

6.ポラロイドカメラ

巷で噂になっているある屋敷のポラロイドカメラは、自分の欲しいもの、必要なものを念写しますと実際数日後に自分の前に現れるという大変不思議なポラロイドカメラなのでございます。
しかしながら、噂で聞いただけで、私は実際には見たことがなかったもので、今回野次馬根性丸出しで近所の方々に混じって観覧に行ったわけなのですよ。
実際に見て、大変驚いたのは噂のカメラが写真屋にあるような普通のカメラと何ら変わらなかったことでしょうか。
とにもかくにも、私はそのカメラの威力を試すためにひとつ念写とやらを試みました。

黒く、分厚い辞典ほどもあるカメラを手に取ります。先程も述べたように、別段変わったところのない普通のポラロイドカメラでした。
レンズを私の方へ向け、欲しいものを念じ、カシャリとシャッターを切ります。
シャッターも別段変わったところもなく、写真も私の額の辺りが映し出されて出てきました。
私は内心がっかりしながら、その写真を持ち帰りました。
それから一週間ぐらい経った頃でしょうか?私はちょっとした用事で、ポラロイドカメラのある屋敷の前を通りかかりました。
とても大きなお屋敷で、やはり、一週間前と同様に門の前には黒山の人だかりでした。
私は一言文句を言おうと、(何故そんなことをしようとしたのか、自分でも分かりませんが)黒山の人だかりを通り抜け、ポラロイドカメラの持ち主の前に立ちました。

「あのう・・・すみませんねぇ・・・あたしは先日ここのポラロイドカメラというものにお世話になった、片山というものです。そのポラロイドカメラについてちょいとね、言いたいことがあるんですが」

持ち主の男は、いぶかしげに私を見つめると、何だ。とだけ呟いたのです。
私はそれだけで少し、文句を言う気持ちが萎えてしまったのですが、それでも、その気持ちを抑えることは出来ませんでした。

「そのポラロイドカメラなんですがね、先日あたしが使わせていただいた訳なのですが、まったくもって、効き目がないんですよぅ、一体どういうことなんでしょうかねぇ」
「効き目がなかったとは、どういう事かな、貴方の写真を見せてくれまいか」

そう言うと、私の差し出した写真を取り上げたのでございます。
その写真には、もちろん、私の額の辺りがぼんやりと映し出されておりました。
そんな写真を見て、男は豪快に笑い私に写真を返しました。

「こりゃ凄い、あんたはこのカメラで普通の写真を撮ったのかね」
「はぁ・・・」

私は何がなんだか分からず、男の話にうなずきました。
男はまだ話を続けます。

「このカメラはな、人間の欲を写すものではなく、人の今後が映るものなのだ」
「はぁ・・・けれどあたしは自分の額が・・・」
「そうよなぁ・・・」

男はしばし思案し、ニカッと笑った。

「つまりは、あんたの未来は特にかわらんって事なのではないかな」
「はぁ・・・」

私は何も言えないまま立ちつくしました。
そして、もう、こんな巷の噂を信じまいと、こう決意したのです。