ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

78.鬼ごっこ

オレンジ色の目が、珍しいんだって。
だから、僕は人間に追われる。
僕の目は、ダイヤモンドより、何よりも価値があるんだって。
鬼の僕が、人間に追われてる。
黒の髪に、オレンジの瞳。
鬼の目は、人間とは違う色をしている。
「なぁ・・・お梅、人間に近づいちゃあならねぇぞ、何たって、あいつら、俺達をそこら辺の動物としか思ってねぇし。」
仲間の鬼が言う。
そいつは、白い髪に、銀色の目をした鬼だ。
いつも釘バットを持っていて、柄は悪いがいい奴。
あいつの言うとおりだった、僕が、ちょっと村に近づきすぎたら、僕は、今こうして追いかけられる羽目になってしまったのだから。
どれぐらい走ったか分からない。
いつも、この辺をふらついてる鬼達は、みんな姿を隠している。
人間は怖い。
「おい、梅!こんなところでなにしてんだ」
頭上から声がする。遠くで、人間達の持ったあんどんが光る。
「遙さん!!助けてください!!」
山本遙(やまもとはるか)はちらっと、木の葉の影から、人間達の様子をうかがい、僕に向かって腕を伸ばす。
「掴まれよ、早く!!」
僕は、彼の手をつかむ。
素早く、彼の座っていた木の上に引き上げられる。
しばらく息を潜めていると、人間達はその木の下をとおって、どこかへ行ってしまった。

「で?何で、餓鬼で、格下で、一番弱っちぃ羽澄梅(はずみうめ)様が、何故、人間なんぞに追いかけられてたんだよ」
「桜さんには言わないでくださいよ・・・僕、殺されちゃいますから・・・えっと、其れがその・・・」
かくかくしかじか、僕は洗いざらい彼に話した。
「はぁ?其れで、よくお前平気だったなぁ・・・桜ねぇさんが聞いたら、ホント、お前殺されるよ・・・下手したら、人間に捕まるより質がわりぃんじゃねぇか?」
遙は金色の瞳を隠すためにかけているゴーグルをはずし、つんつんに立てた白髪を手ですく。月の光で、銀色に光っていた。
「えぇ・・・僕も、そう思います。其れで・・・」
遙の金色の目が、ふっと細められる。月の光できらきらと輝いてて、とても鬼には見えない。
「でもよ、俺の手を借りたのは間違ってたなぁ・・・梅」
怖い・・・背中に悪寒が走る。今ここから逃げなきゃ、殺される、僕は木から飛び降り、木葉のつもる、地面を走る。
草履と足袋の間に木葉が挟まる。
まさか、遙が鬼を裏切って人間の仲間んなるなんて思わなかったから、僕は酷くショックで、本当はその場に立ちつくしていたいくらいだった、でも、立ち止まったら、殺される。
必死で走る、けど、遙の方が僕より運動神経もいいし、上級の鬼だから、すぐに追いつかれる。
「梅ぇ・・・もう逃げらんねぇなっ!おとなしく、俺につかまりゃあいいもんを、何で、ちょこまか逃げるかなぁ・・・このクソガキは」
遙の目が怖い、僕は、息を切らせながら、はだけた羽織をつかむ。
「ヤだ・・・僕は、絶対に、捕まらない・・・遙さん、お願いだから・・・」
「鬼ごっこは終わりだ・・・梅、お前、角と、目とられんのどっちがいい?」
僕はぞっとして、しゃがみ込む。
「どっちも、ヤだ」
目を取られたら、もう残りの目がない。僕の左目は義眼だ。ある男に僕の目は奪われた。鬼の目は綺麗で丈夫だからとても価値がある。
角は鬼が鬼である印、天使の羽みたいなもん。どっちもヤだ。絶対に。
僕は、遙を見つめる。
ゴーグルをかけて、バットを振りかざす。
「死ぬか、生きて、角か目を無くすか、お前はどれを選ぶ?」
僕は遙を見つめたまま、ゆっくり立ち上がる。
「だったら、僕は、死を選ぶ」
「クソガキがぁ・・・」
ふぅと、ため息をつき遙は僕に近づいてくる。
そんなときでも、彼の白髪は綺麗だ。
黒い表地に赤の裏地の着流しによく似合っている。
「いぃーから見てろよ」
僕たちは、普段はなるべく目立たないように、角をしまってるんだけど、僕に近づいてきた遙は、僕の目の前で角を出した。
「あ・・・」
遙の紅い角は、丁度半分ぐらいのところで折れている。
「お前も、出せよ・・・角」
「いや!!」
「いいから、早く!!」
遙の怒鳴り声に、僕はびくっとして、角を出す。
僕の角は、黒だ。遙のバットが振り下ろされる。
僕は痛みで、目の前が真っ白になり、その場に倒れる。
「あぁ・・・やっぱ、いぃつのもってんなぁ・・・ねぇ、これで、俺ら鬼の中の、鬼だよ」
「意味分かんない・・・遙かさん・・・痛いよぅ・・・」
遙はにやっと笑い、折れた角を拾った。
「桜ねぇさんにばれたら、俺ら本気で殺されるなぁ・・・」
「僕も?ねぇ・・・遙さんは、人間の仲間になったの?」
「なってねぇよ・・・俺は、あいつらにでかいつらされるのが面白くないだけさ、だから、お前が俺の仲間一号って事」
僕を追いかけるのに邪魔にならないように、肩までまくり上げていた着流しの袖を降ろしながら、言った。
「本当の鬼ごっこは、ここからだぁ・・・なぁ、お梅」