ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

92.夢かもしれない

さぁいこうか、これで何回目?
人を撃ち殺した。
義父のベッドの枕元には、レミントンのリボルバーが一丁しまってある。
僕はそれで義父を撃ち殺した。
僕の義父はマフィアのボスで、僕が義父を殺したと知ったらどうなるだろう?
たかが15才のガキに、ボスが頭を打ち抜かれて殺された。
義父のシマは荒れるだろうな、おもしろそうだ。
銃を持ったまましばし死体を見下ろす僕。
気配がして、僕は入り口のドアに銃口を向ける。
「おめでとう陽一郎、これでおまえは晴れてボスだな」
「あんたは、サックスだな?多重人格のサイコ野郎が僕になんか用でも?」
皮肉たっぷりに僕は笑ってやる。
「そんなおまえが大好きだけどね、俺は」
「僕はおまえなんかに好かれたくないよ」
思い切りにらみつける。
サックスは笑う。
「怖い顔」
サックスがつぶやきを消すように、サックスの脇から「陽ちゃん!!」とアイネが飛び出してきた。
僕はアイネを抱きかかえ、死体を見えないようにした。
「陽ちゃん、どうしたの?凄く、どきどきしてる」
アイネは心配そうに僕の顔を見つめた。
「大丈夫、アイネ、もう寝た方がいい、僕が部屋まで連れてってあげるよ」
アイネを抱きかかえたまま、僕はサックスとすれ違う。
すれ違う瞬間、お互いに銃を抜く。
「残念、早速新しいボスを暗殺しようと思ったのに。」
「そっちこそ、お前の面をもうみないでいいように吹っ飛ばしてしまおうと思ったのに」
お互いに銃口を向けたまま、引かない。
引けるはずがない。
出来れば、この場でサックスを殺してしまいたかった。
一度瞼を瞑り、サックスはにぃっと笑う。
菊月だ。
「ゴメン、少し手間取って」
僕に向けていた銃口をおろす。
僕も菊月に向けていた銃口を納める。
「菊月ありがとう、あのままお前がサックスだったら僕は殺していた」
菊月が笑う。
サックスと同じ顔のはずなのに、まったく違う顔をして笑うので、僕はそれを毎回不思議に思う。
「殺してくれてもかまわなかったのに」
僕は、菊月に背を向けて、呟く。
「たとえそれがどんな友達でも、出来たら友達は、お前は撃ちたくない」
「義理の父親を殺しても?」
僕たちの横から、別の声。
ジークだった。
声の方向を見つめ、僕は目を細める。
眼鏡をかけていなかったので、殆ど顔を判別できなかった。
「レミントンを殺したって事は、次からお前がボスか。ほら、本当なら、サックスがレミントンを次ぐ予定なんだ。なぜなら、一番年齢が上だから。でも、サックスがお前をボスと言ったなら、やつはボスを次ぐ予定ではないって事」
「僕も、ボスを次ぐ予定はないよ。サックスにその気がないのなら、君達が好きにしたらいい」
声を低くして、僕はムジークをじっと見つめた。
ジークも表情をゆるめ、僕を見つめる。
「俺達だって、次ぐ気はないよ。ただ、お前が任されていた武器取引のルートが手に入れたい」
「それは出来ない相談だな」
即答。
ジークは面食らって、笑う。
「俺らは殺し屋としての知識しかない、そして、殺し屋としてしか育てられてない。だから、これから先、兄弟だけで生きていけるだけの糧が欲しい」
僕はため息を付いて、瞼を少しだけ閉じた。
「だったら、僕と菊月だって一緒だ。そう、たとえば、こんなのはどう?僕たちが裏取引やらなにやらで小金稼ぐから、君達は僕たちが危なくなったら僕たちを守る、つまりボディガードだ。そのかわり、僕たちに絶対的な信頼を持って欲しいし、僕たちも君達を信用したい」
「そう、分かった、アイネを君達に任せる。いわば人質みたいなもんだ、それでどうだ?僕たちのミスで、君達二人のどちらかに被害が被ったら、アイネをどうしようと僕たちは何も言わない。そのかわり」
「僕らが君達を裏切ったときは、どんな方法を使っても良い僕たちをみつけて、僕たちを消すことを許可しよう、それと、レミントンのボスの座」
僕は表情を変えずに言った。
ジークも無表情。
「取引になってない。でも、まぁ、いいか。君にアイネをどうこうできるはずはない。だって、アイネを一番可愛がってるのは、結局お前だからな」
アイネは、きょとん、と僕を見つめた。
「ねぇ、陽ちゃんはお父様を殺したの?」
僕はその言葉を聞いて、これが夢だったらいいのに、と思った。