ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

49.竜の牙

僕と、菊野香月は、施設で起きた無差別殺人事件の生存者として、別の施設に保護された。
施設、と言っても、今まで居たような実験施設ではなく、いわゆる孤児院のような物だった。
名字が違うのに、僕らは兄弟と言うことにされた。
別に名前なんて関係ないのかな。
菊野香月の容姿は、明らかに僕とは違っていた。
すみれ色の瞳に、プラチナブロンドの猫っ毛。
二重で、平均的な外国人の目。
唇は薄いサーモンピンクで、肌は白い。
僕はと言えば、焦げ茶色の髪に、同じ色の瞳。平均的な日本人。
どう見たって、菊野香月は、日系の僕とは違う、白人系特徴を持った人間だ。
僕は、別の施設に移される途中に車で、香月の年齢を聞いた。
「13、死刑台に上る階段と同じ年齢だよ。」
って笑顔で答えた。そして。
「だから、先生や、みんなを死刑にしなきゃならなかった」
とも言った。
僕に、彼の真意は解らない。なぜ僕と棗一だけ殺さなかったのかも。
だけど、彼は僕をあの部屋から出してくれた。それだけで十分じゃないか。
「陽一郎は?」
「・・・多分、僕は、あの記録から言うと、約9歳」
「驚いた、もう少し俺に年齢が近いのかと思ったけど」
僕は、車の中で、自分の靴ひもを見ながら少しだけ考えた。
約って言う表現が正しいのかどうか。
多分僕が本で読んだ限りでは、自分の年齢を約なんてつけて表さないだろう。
何ヶ月、とか何日とかそう言う風に表現するはずだ。
「あまり、気にしない方がいい。そのうち、年齢なんて関係なくなるから」
香月は僕に笑いかける。

それから一年が経って、僕と香月は、孤児院から里親の元に出されることになった。僕と香月二人いっぺんだから相当なお金持ちだろう。
僕と、香月の前にその人は4人もこの施設から引き取ったらしい。
とにかく、僕らはこの施設から外の世界に出られることが嬉しくて、あまり深くは考えていなかった。

「こちらは、藍禰(アイネ)9歳 狗禮禰(クライネ)11歳 那杷兎(ナハト)12歳 夢慈郁(ムジーク)13歳、アイネ、クライネ、ナハト、ムジークこちらは、陽一郎10歳と、香月14歳」
ひげで恰幅の良いグレーのダブルのスーツを着た、僕らの新しい父親は、これから僕の家族になる人間達を紹介した。
アイネはブルネットの髪に同じ色の瞳の白い肌の女の子僕を見つめてにこにこ笑っている。
クライネは、少し癖のある黒髪に僕と似た色の瞳を持った男の子特に表情はない。
ナハトは、神経質そうな表情をした、黒髪に緑色の瞳を持った少女。
ジークは、いつも自信ありげな笑みを浮かべている、ストロベリーブロンドで香月と同じすみれ色の瞳を持った少年。
全員、僕らを品定めしているようだ。
「宜しく、お願いします」
「宜しく」
僕と香月はとりあえずありきたりな挨拶をする。
アイネ、クライネ、ナハト、ムジークは、軽く会釈する程度。
「じゃ、みんな仲良くするように、私は仕事に行ってくるので、何かあったら執事のハリスに伝えなさい」
そう言うと、僕らの父親となった、レミントンさんは去っていった。
施設を見学に来たとき、レミントンさんのことが僕と香月の話題として上ったことがある。
なぜなら、レミントンと言うのは、僕らが初めて人を殺したときに使った拳銃のメーカーだったからだ。
だから、養子にならないかって話を受けたとき僕らは一発でOKした。
レミントンさんの背中をみんなで見送ると、早速、僕を見つめていた少女、アイネが、僕の腕に飛びついた。
「アタシ、アイネ。ねぇ、どっちがどっちなの?」
それをクライネが無表情のまま、続ける。
「だって、君らどっちがどっちだか名乗らなかっただろう?だからどっちが陽一郎で、どっちが香月だか解らないよ。」
「御免なさい、僕が、陽一郎です」
僕が、香月を見つめると、香月は目を細めながら、僕の肩を掴む。
「陽一郎、こいつ等あまり信用するな」
僕は香月を訝しげに見つめる。だって、新しい兄弟じゃないか。
それを見た、ムジークが、押し殺したように笑う。
「に・い・さ・ん。君たちも僕たちが居た施設と関係してる施設にいたんだろ?第一研究所の生き残り。」
ジークはワザと香月に向かって兄さんを強調しながら言った。
そんなムジークの挑発に、香月は動じなかった。
「あぁ」
それ以外は何も言わない、何も言ってはいけない
「あれは、起こるべくして、起きました。君らの所為ではない、あんな研究をしていたら、いつか、ああなることぐらいあの人達でも予想できていたはずです」
ナハトが、出窓に座り文庫本を広げながら言った。
「パパはね、あたし達みたいなのを保護してるの」
アイネが笑う。
「と、言うと?」
僕は、誰にでもなく、答えを求める。その先を知りたい。
しばしの沈黙の後、ムジークが続ける。
「俺達四人は、きょうだい。Dragon's fang(竜の牙)プロジェクトの産物。多分、レミントンさんが、お前等を養子にとったのも、お前等が俺達と同じプロジェクトに関わっていたからだろう。」
「僕たちは、君たちときょうだいごっこをしようなんて思ってないよ。ただ、同じプロジェクトの産物なら、僕らのボスになってもらいたいって事だ。」
ナハトが文庫を読みながら言った。
どうやらナハトは女なのに、自分のことを僕と呼ぶらしく、人と目を合わせるのが苦手なようだった。
「ま、気が向いたらでいいよ。」
ジークが僕と香月の肩を軽く叩く。
「何で、お前等が中心じゃなく、俺達がボスなんだ?」
ジークがにやり、と笑う。
「教えて欲しいか?それは、まだナイショ」
ジークがまた笑った。