ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

19.ナンバリング

金色の目、白い髪、凶暴そうな口元に、黒に紅い裏地の着流し。
そして、左腕に刻まれた数字。
彼は言う。
「俺はな、人間の手で復元された鬼なんだ、だからナンバーが入ってる。馬鹿らしい話だが、本当の話だ、俺も最初は全く信じたくなかった。だって、自分が人間どもの試験管の中で生まれたなんて、誰が信じたい?だけど、ある日、俺は俺の生まれた証拠を突きつけられた。だから、信じるしかなくなったんだ。それに比べて、お前は良いなぁ・・・復元された鬼じゃなくて、天然記念物級の、本物の鬼だもんな」
僕は折られた角を触った。
もう、痛みはない。
「遙さんの方が、力が強いじゃないですか」
僕は、遙さんの金色の瞳を見つめた。
「でも、俺には希少価値がない。量産型みたいな物だろう、だから、人間にすぐ殺される。それに比べてお前みたいな天然記念物はすぐには殺されないからな。羨ましい限りだ。」
「どうやって、区別を付けるんですか?その、ナンバーのタトゥー以外に。」
僕が問うと、遙さんは自分の金色の瞳を指さした。
「瞳の色。天然の鬼だと瞳と髪の色は同じなんだよ。ほら、俺の場合瞳と髪の色が違うだろ?桜姉さんもそうだ、あの人の髪は黒なのに、瞳は桜色をしてる。それに比べて、梅は、オレンジがかった黒髪に、オレンジの瞳。」
「へぇ・・・知りませんでした」
僕が感心したように言うと、遙さんはにっこり笑って、僕の髪をくしゃくしゃにする。
「やっぱり、お前はがきだな、ほら、さめちまうから、はやく団子汁食いな」
あの時見せたような、凶暴な顔ではなく、遙さんは優しげに言った。
僕は、箸を持って、とりあえずにんじんを口に入れる。
とても、美味しい。
「桜姉さんに、角のことばれたか?」
「まだ、ばれてません。桜姉さん何か、自分のことでいっぱいいっぱいみたいで」
僕が笑うと、遙さんはほっとしたように、その場に寝転がり、いろりを火箸でつつく。
炭の燃える色が綺麗だった。
「俺はぁ・・・桜姉さんに拾われて、もう、50年ぐらい経つんだけど、あの人は何も変わらない。あの人は、どうやって生きてきたんだろうねぇ、俺よりナンバーが古いから、凄く長い間生きてるんだろうけど、俺にはあれだけ生きても姉さんみたいな生き方は出来ねぇや」
「僕もです、人間と戦いながら、僕らみたいなの拾って生きて行くなんて無理だと思います。それに、仲間同士のいざこざまで片づけるんでしょ?」
「凄い人だよ」
そう言うと、どこから出したのか、遙さんは猪口に酒をついでぐいっと飲み干した。
金色の瞳に、いろりの火が映っていて、瞳はさらに金色に光る。
「でも、僕らはきっとそんな桜姉さんを裏切ってしまいますよ。それでも、いいんですか?遙さんは」
遙さんは、また猪口からぐいっと一口のみほし、酒をつぐ。
「おらぁ、たとえ、姉さんを裏切ってしまっても、俺ら鬼が安全に暮らせればそれでいいんだ、姉さんみたいに、人間と共存するなんて考えられねぇ、あいつらの自分たちが一番って言う考えはきっと死んだって、正せねぇぜ」
僕は、団子汁の汁をすする。
遙さんは、着流しの袖をまくり自分のナンバーを僕に見せた。
「俺が、295で、姉さんが15だ、ってことは、まだ仲間は沢山いるんじゃねぇか?
俺は、1番がどんな奴か見てみたい」
また、火箸で炭をつつく。
「でも、実験段階でなくなってる方もいると思います、だから、その半分ぐらいって考えた方がだとうかも。それに、僕たちの考えに賛同してくれる人はさらに三分の一に満たないかもしれない」
僕が言うと、遙さんは少しがっかりした風に「確かになぁ・・・」と、呟いた。
でも、と僕が続ける。
「もしかしたら、僕の仲間がいるかもしれない。その人達ならもっと良い考えをもってるかもしれない」
「ナンバリングのない、仲間か・・・当てになるか?」
「どこにいるか分からないけど、多分、僕が拾われた辺りに住んでると思います」
僕は、団子汁を食べ終え、お茶を入れた。
遙さんに、茶碗を渡す。
「じゃあ、当てにはならねぇが、ちょっくら出かけるか」
遙さんが熱いお茶を流し込みながら言った。


そして僕らは、動き出した。