ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

9.かみなり:吸血鬼

さっきから、ルイは空に光る稲光を子供がはじめて花火をみるような、不思議なそれで居て楽しそうな顔で、ずっと見つめていた。
あまりに彼がじっと、それを見つめているので、彼に気づかれず彼を見つめていられるのだが、やはり、いつものように私を見つめ、説教をたれてくれないと、何となく寂しい気分になるものだ。
「ルイ、君はさっきから稲光を見つめているけど、ヴァンパイアといえども、稲妻に打ちのめされたら燃え尽きて灰になってしまうよ」
ただでさえ、ルイは弱いヴァンパイアなのに。
彼は、苦笑して、また視線を窓の外へ向ける。
「だって、綺麗じゃないか、僕が人間だった頃、どちらかと言えば雷は嫌いだったんだ、けど、ヴァンパイアの目で見る雷はとても綺麗で、まるで祭りの花火のようだ。こんな綺麗なものに打ちのめされるなら、僕は全然怖くはないよ」
今度は私が苦笑する番だった。
「全く君って奴は・・・君が居なくなってしまったら、私が困るから、そう言ってるのに」
「人間の頃、恐ろしかった物や、何とも思わなかったものが愛おしく思えるのは、僕が死んでしまった人間だからなのだろうか?」
私は急に悲しくなって、彼を抱きしめた。
彼は、されるがまま私に抱きしめられる。壊れそうなほど、柔らかい体だった。
「君は死んでなんて居ないよ、ヴァンパイアとして生きている。それだけで、十分じゃないか。それだけで、もう、私の前から姿を消すようなことはしないでくれよ」
気がつけば、彼も泣いていた。
血の涙が、私のシャツに染みを作る。
とても綺麗な赤。
私は、彼の涙をぺろりとなめた。
「さぁ、花火でもみようか」
私が微笑むと、彼はうなずいて窓の外を眺める。
相変わらずのひどい嵐。
地面に落ちているものをすべて洗い流すかのような、雨と風。
私達は、夜が明けるぎりぎりまでそれを眺めた。
やがて夜明け近くになると、朝が近づき青みがかった星空が雲の間からちらほら見え始め、あの嵐が嘘のように晴れ渡った空へとその姿を変えた。
まるで、私達の今までの歴史をみているようだった。