ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

14.ビデオショップ

いつも通っているビデオショップがある。
黄色と青の色合いで、ビデオショップのロゴが書かれていて、夜その店にはいるときは思わず目を細めてしまうくらい煌々と灯りで満ちた店内。
今日も私は何気なくそのビデオショップに立ち寄り、めぼしいビデオがないか物色していた。
週末になるとレンタル中が多い。
サスペンスから海外ドラマ、邦画、洋画、新作。
店内の隅から隅まで眺めていく。
ふと、ジャパニーズホラーのコーナーで足を止める。
見覚えのないタイトル。
新作だろうか?
『ビデオショップ』
白いジャケットにオレンジの明朝体で縦書きにされている。
裏には大概あらすじ等がかいてあるのに、このビデオにはなにも描いておらず、ただジャケットの表紙と同じく真っ白だった。
私はとても興味がわいて、それをレジへ持ち込みいつも通りカードを出す。
店員は、そのビデオのバーコードをリーダーで読み込もうとしてセンサーをあてたが、ぴ、と音はしたものの、何も表示が出ない、店員は首を傾げながら、もう一度読みとろうとしたが、やはり、何も出なかった。
渋々、バーコードのナンバーを手で打ち込んでいたが、エラーが出るばかりで何も出なかった。
店員は、苦笑いしながら。
「お待たせいたしました、済みません、こちらの機械の故障で、こちら旧作なので一本で280円になります。」
私はお金を払うと、ビデオの入った袋を小脇に抱え家路についた。

早速先ほどのビデオを、デッキにセットし、リモコンの再生ボタンを押した。
他のビデオと何ら変わりない。制作会社のクレジットなどが入ったあと、新作の紹介等が入りビデオが始まった。
オルゴールの音、手作りプラネタリウム、望遠鏡。
出窓に飾られたプラモデルと、写真。
夜。
おそらく少年の部屋。
そこで、画面がいったん閉じて、今度は同じ部屋の朝の様子。
人がベッドから降りる音が聞こえた。
先ほどは気がつかなかったが、この部屋の壁の色は綺麗な空色だった。
窓枠は白、部屋のドアも白。
服を着替えると、少年が画面に向かって手を振る。
カメラが少し揺れた。
少年がドアから出ていく音がしたあと、画面が一度真っ暗になり、再び場面が変わった。
どうやら同じ家の中、台所らしい。
誰かの手、が包丁を物色している映像が流れる。
そこで、私はあることに気がつく。
この映像は、まるで誰かの顔面にカメラが入りついているような映像だ。
人が歩くときに起こる揺れまで再現されている。
ERなどの手ぶれ手法という奴だろうか・・・しかし、ドキュメンタリータッチ過ぎる。
まるで、殺人犯が人を殺す前に包丁を吟味しているような、そんな映像が流れている。
画面が振替って、時計を眺める。
午後4時30分。
もう夕方だった、さっきの映像からだいぶ時間が経っているらしい。
私はそれを固唾を飲んで見守る。
「ただいまー」
声変わりする前の少年の声。おそらく朝の映像の時に出てきた少年だろう。
少年は、画面の方をみて驚いた顔で立ち止まり、ランドセルを床に落としてしまった。
「おかあさん」
画面が少年にズームする、否、少年に駆け寄った。
少年の苦痛に満ちた顔がアップで映し出される。
少年が画面を見つめる。
少年の目には女性の姿が映っていた。
次の場面は、誰かの手が血でべったり湿った床をふき取るシーンだった。
拭いても、拭いてもこびりついた血はなかなか落ちない。
この時点で私は呆然とただ画面を眺めていた。
私はとんでもないビデオを借りてしまった。
次のシーンは、死体を埋めるところ、その次は、帰り道。
私は耐えられなくなり、停止ボタンを押そうとしたその瞬間、画面いっぱいに。
「タスケテ、タスケテ、タスケテ、タスケテ・・・・」
白地にオレンジの文字で延々とまるでパソコンで打ち込むように広がっていった。
私は怖くなって、急いで停止を押し、ビデオを撮りだした。
それでも、その文字は消えず、テレビの電源も、ビデオのコードも抜いた。
そして、友達に助けを求めようと携帯を開くと、其処には、やはり先ほどと同じように「タスケテ」が羅列されていたのであった。