ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

31.まるで深い樹海の

いつからだっけ?私がこの樹海の中に拠点を構えたのは。
もう、忘れてしまったな。
本当に、こどものときだったから。

私がはじめてこの樹海の下に在るナイン-ビレッジに辿り着いたのは、10才の時だった。8才の時、親に棄てられて、9才の時ただ、自分の年齢と同じ数字だと言うだけで、この村を目指した。しかし、実際にあの距離から子供の足では一年かかってしまった。
何度も、何度も死にそうな目に遭いながらながら、私はこの村にたどり着いたのだ。
殆ど意識がなく、何も覚えていなかったが、私を助けた中年の男が、公開処刑場の磔台の下で丸くなって横たわっていたと、言っていた。
確かに、そのまま死ぬにはうってつけの場所だった。
しかし、私はまた、生きながらえた。
そして、今は盗賊。私の人生にうってつけの仕事だ。
「そーむりーん!!」
武器の手入れをしながら、ちら、と声の主を伺う。
金髪に銀色の目をした男―――チャービルだった。
私よりも年齢が上で、この盗賊団の参謀的存在。
しかし、陽気で、殆ど参謀には見えないが、ひとたび彼が指揮を執れば何もかも彼の計算したように運び、万事丸く収まってしまう。
「チャービル、何?」
チャービルの目が、参謀のそれに変わる。
「西の方で、奴らが不穏な動きしてるって、新入りのディル君が調べてきたよ。」
「ディル?あぁ、この前私が拾ったちびちゃんか・・・で?どんな動きしてるって?」
「ディル君じゃ、其処までは調べられないよ・・・ただ、コリアンダーの王が盗賊討伐のために優秀な騎士を募り何人か雇ったらしい。その中に、あの、ジャック・カルティエと、プレジデント・ドゥ・ゼズ、リトル・ジェムの三騎士もいるらしい。まぁ・・・あくまで噂のレベルだけどね、とりあえず、これが真実なら僕たちは今ピンチだね」
にこり、と笑うチャービルに私は少し呆れながら、「ピンチだねvじゃ、ないよ・・・何か、作を考えないと・・・」と呟いた。
「フゴニス、ショウガ、君たちにお願いがある。いつものようにスパイをお願いしたい。情報がとれるまで帰ってくるな。私からGOサインが出たのを見計らって離脱しろ」
「了解」
「タイミングはあたし達の方でみればいいのね」
ショウガが笑う。
フゴニスが、指先で鉛筆をくるくる回しながらへらへらと笑った。
「僕たち、タイミング悪いから死んじゃうかモネv」
私はフゴニスの頭を撫でた。

彼は彼が思っているよりも、賢いと僕は思う。
戦いの腕は、僕よりも遙に立つし、参謀役なんて肩書きのついてる僕よりも頭の回転は速い。
自称、参謀補佐。なんて名乗ってるけど、彼がこの盗賊団の団長でも良いくらいだ。
紅い髪と、眼鏡を直す仕草。
たぶん、ソムブロイ彼の生まれは普通の家じゃないかもしれない。もっと、多分自分みたいな人間じゃ思いつかないような高貴な生まれだと思う。
それ故に、彼はひとりになってしまったのかもしれない。
成り行きで、僕は彼について行く羽目になってしまったけど、後悔はしていない。
彼の深い、樹海のような心の片隅で少しでも支えになれたら、それだけを願っている。
「チャービル、おれは・・・本当に、間違っていないだろうか?」
彼がはじめて僕に心を開いたとき、そう言った。
自分の手で姉を殺してしまい、紅い瞳に涙をためながら、そう呟いた。
血で染まった両手は、彼の瞳の色のようで、まるで涙がそのまま血に変わってしまったかのようだった。
彼は、姉の亡骸を土に埋めると、姉の後継者を名乗り、盗賊を集めた。
自分たちのような境遇を少しでも減らす為の集団を作りたかったのかもしれない。

ショウガとフゴニスの情報によると、先のディルの情報は確かなものらしい。
さらに、噂でしか聞いたことがなかった、三騎士の写真が送られてくる。
金髪碧眼の男がジャック・カルティエ
うす茶色の毛に、濃いグリーンの瞳の男がプレジデント・ドゥ・ゼズ。
黒髪黒目の男が、リトル・ジェム。
三人とも十代後半だとのことだ。どうやら、私と同じくらい、と言うことらしい。
私は久々に楽しくなる。
この騎士を破ればおそらく私の盗賊団は不動のものになる。
思わずほくそ笑んだ。


そして、戦いはその一週間後に始まった。