ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

17.√

俺は公園のブランコの上で、ぼうっと日が落ちるのを待っていた。
太陽が沈んで、辺りが暗く鳴り出した頃人の気配がして、見上げると、其処には小さな少女が立っていた。
その子は、金色の髪で色の白い青い瞳の印象的な少女だった。
俺は、気にしない振りをする。
今日は、いつも以上に惨めだったから。
「君は、こんな所に座って、何してるの?」
少女はまるで、子供とは思えないような大人びた口調で、俺に話しかけた。
「君こそ、こんな時間にひとりで危ないんじゃない?家族は?一緒じゃないの?」
「あたしに家族なんて居ないわ。ねぇ、貴方、真下秀を知らない?」
その名前を聞いて、俺は息をのんだ。
けど、出来るだけ平静を装って、出来るだけ普通に見えるように笑った。
笑うのは苦手だ。
「あぁ、この辺じゃ知らない人間は居ないんじゃないかな。君は、その人の親戚か何か?」
「その人、探してるの。」
にっこり笑う彼女から視線をずらし、俺は小さな声で言葉を吐きだした。
「その人、死んだよ」
けれど、彼女はさも、それが当たり前のように、笑いながら。
「そんなこと、知ってるわ。そんなこと、知ってるわ。あたしだって、馬鹿じゃないもの。それに、秀が死ぬときもあたし、観たもの」
あの時の光景が、俺の脳裏によぎり、気分が悪くなる。
「大丈夫?松谷古都治君」
俺は、両手で抱え込んでいた頭を上げ、彼女の顔を見た。
「なぜ、俺の名前を、知ってる?」
透き通った青い瞳がにっこり笑うのを観た。
「あたし、貴方と会ってるわ。一度だけね。あたしの大事な人を殺した人の息子さんなんでしょ?」
嫌な考えが頭の中によぎった。
「ヨシダスズミ?」
にっこり。
「当たり。」
俺は、何がなんだか分からないまま、しばらく彼女を見つめた。
「別に、貴方のお父様に復讐しようとか、そんなんじゃないの。ただ、秀ちゃんに会いたかっただけよ。あの人ね、あたしが死ぬ前に目の前に現れたの。まるで、喪服みたいな黒い服着ちゃってさ、深い青緑色の瞳をしてこう、呟いたの。「ゴメン」って。何も、自分が悪い訳じゃないのに。それで、手、ずっと握っててもらったのに、いつの間にか居なくなちゃったから、だから、あの人探してるのそれと、もう一つ。秀ちゃん、多分いけないことしようとしてるから、それを止めたいんだ」
彼女の唇から発せられる言葉の殆どがにわかに信じがたい物ばかりだったが、俺は、頭の中が混乱していた。
「何で、俺の所に出てきたんだよ」
「秀ちゃんが行けないこと考えてるとしたら、多分、自分を殺した人の近くにいると思って」
「なぜ?」
「何となく、秀ちゃんならそうすると思ったの。あと、貴方も知ってると思うけど、真下蜜雪さんの所にも様子を見に行ったの。ちょっとの間だけ、秀ちゃんの事件を担当してた刑事さんね。でも、その人の所にも居なかった。秀ちゃんなら、絶対、蜜雪さんの所にいると思ったんだけど、はずれちゃった。」
ヨシダスズミはは苦笑する。
「頭・・・痛いんだけど」
「分かるわ、いきなりこんな話し、信じられないもんね。」
「そうじゃなくて・・・薬が、切れちゃったんだよ、しかもタイミング悪いことに、手持ちもない」
「大丈夫だよ」
古都治の頭に、小さなの平を置いた。
すっと、痛みがひいていく。
「何した。」
「あたしが使える力のひとつ。」
じっと、彼女を見つめる。
彼女はにっこり笑い、古都治の頭をまた撫でる。
「ね、とりあえず、あたしを貴方の家に置いてくれない?」
「やだよ、俺だって、じっちゃんちに居候してるんだから。これ以上、あの人に迷惑かけられないし。きっと、蜜雪さんが許してくれないよ。だって、俺は、蜜雪さんのいとこを殺した人間の息子だ。」
「大丈夫だよ、あたしって、お化けみたいなものだから、姿見えないんだよ」
「じゃ、何で、俺に見えてるんだよ」
「あたしが、見えるようにしたから」
「へぇ・・・」

そして、俺達は、真下蜜秋爺さんの家でお世話になることになった。
俺が、じっちゃんちに居候する羽目になった経緯は、また別の話だ。
それは、bthの最後になってしまう。