ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

12.ガードレール

そんなものに意味はなかった。
それはただの気休め程度にしかならなくて、結局車は俺に向かって突っ込み、壁と俺とガードレールとでサンドイッチにした。
痛みなんて感じない。
一瞬だった。
サンドイッチにされて、へらへら笑う俺を観て、何を勘違いしたのか、運転手はへらへら笑いながら降りてきて、俺に聞いたはじめの一言は。
「大丈夫ですか?」
大丈夫なわけがなかった。
腰から下の感覚がない。
けど、俺は、パニックになっていた。
「大丈夫だと思います。」
事故の音に気が付いた近隣住民が、俺達の周りに集まる。
「何いってんだよ、兄ちゃん、救急車呼べよ。ほら、凄い怪我・・・」
そう言う男性の後ろでは、既に女性が警察に通報していた。
俺は、だんだん息が苦しくなってきたが、それ以外は別に何ともないと思っていた。
「何か、だんだん、息苦しくなってきました。」
「そうだろうな、血、すげぇぞ。もうちょっとだから・・・が、がんばれよ」
近所の人らしき男性に言われ、確かめる。
確かに、血が出ていた。
運転手の男は、顔面蒼白のまま立ちつくしている。
「車、動かして平気ですかね?その方が助けやすいんじゃ・・・」
運転手の男の後ろで、女性が言った。
がたいのいい男が、首を振る。
「下手に動かすと危ないから、やめといた方がいいですよ。」
と、言うか、痛みがない時点で、アブねぇんじゃないかと俺は感じた。ガードレールとパンパーがこれだけ食い込んでるのに、何ともない。
どう考えたっておかしすぎる。
十数分後、救急車が到着。
救急隊員の顔も分かるぐらい、俺の意識はハッキリしている。
しかし、救急隊員は、「レスキューも呼ぼう」と、無線をした。
再び、俺は待たされる羽目になった。
その間、救急隊員に、沢山話しかけられ、それを答えるだけで疲れてしまった。
「何も感じないんすけど、ぶっちゃけ、俺っていまどうなってるんですか?」
救急隊員は、にっこり笑う。
「大丈夫、必ず、助けるから」
何となく、やっぱり、俺はヤバイ状況なんだって、分かった。
救急隊員が付いてから、十数分後、レスキュー到着。
オレンジの制服がかっこいい男ばかりだった。
俺の、様子を色々な角度から観察し、救急隊員となにやら相談している。
「ねぇ、君、家族は?」
「有るよ、ケータイ。鞄に入ってるから無事だと思う。あっちに吹っ飛ばされてる」
自分の手を観て驚く。
血の気が失せている。
なにやら、俺の家族を呼んでいる様子。
母の勤務先がすぐ近くなので、すぐに母が駆けつけた。
多分、俺は死ぬんだと悟った。
ガードレールに挟まれて、多分、俺の体は切断されてるに違いない。
だから、それを抜き取ってしまったら死んでしまう。
母が話してることなんて、上手く聞くことが出来なかった。
俺は多分、数分後にはそれを知らされて、遅かれ、早かれ死んでしまう。
そう考えただけで、今までしてきたことに対しての後悔が頭の中をよぎった。
最後に、沢山の人に、お礼やらなにやら言いたかったが、どうやら間に合いそうになかった。
やはり、数分後に俺は車を動かせば死んでしまうことが告げられた。
俺は、覚悟を決めて快諾する。
きっと、怖くない。
そう言い聞かせて、最後の瞬間を待った。