ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

15.ニューロン

神経細胞つまり、ニューロン。それを機械で補うというのですね。」
「そう言うことになるね、だってほら、人造人間って、神経細胞が死んでしまった状態で俺達の元に届くだろ。いつも新鮮な死体が届くという保証はないしね。だから、あらかじめ、神経細胞を機械で補うという実験を行ったわけさ。」
僕たちは人造人間を作る研究チームの一員だ。
「今日は男の子だね。実際人間の脳で行うのははじめてだからね。」
研究チームのチーフ、山崎はまるで子供がはじめてオモチャを与えられたときのような瞳で笑っていた。
僕は、ただじっと子供の死体を見つめていた。
「チーフ、僕らは、本当にこんな事をして良いのでしょうか?神を、冒涜する行為になりませんか?」
「いや、大丈夫さ。神なんて存在しない、科学的にね。もし、存在してるとしても、神様は喜ぶだろうね、こんなにも自分が作り出した人類という生き物が進化したことを。」
「そうですか」
僕は、チーフが手際よく頭蓋骨を開き、神経細胞の代わりをするコードを接続するのを見守った。
そして、最後に、携帯電話に入れるSDカードと同じくらいのチップを後頭部の当たりに埋め込んだ。
「このチップで、人造人間を制御し、コントロールする」
「まるで、奴隷ですね。しかし、死んだ人間が未承諾で、そこら辺闊歩されても困りますしね。」
「はじめは、人権がどうのと言うことで、コントロールチップの埋め込みは行わない予定だったのだが、上が煩くて、チップの埋め込みを行うことになった。」
チップを入れた子供の死体は、ゆっくりと瞼を開く。
茶色い髪をした、緑色の瞳の少年だ。
少年は、ここがどこだか、どうして自分がここにいるのか理解していない様子だった。
「気分はどうかね?」
チーフは、少年に向かって優しく話しかけた。
僕はただ、それを見守った。
「ここは、T研究所というんだ、君は昨晩ここに連れてこられた。」
「僕は、なぜ、生きて居るんですか?」
チーフは僕の方を向くと、小声で囁く。
「生きていた頃の記憶をすべて消去してしまわないと、面倒だな」
僕は頷く。
「君は死んでなんか居なかったんだ、この研究所で特別な治療を受けて回復したんだ」
チーフは嘘を並べる。
少年は、不思議そうにその話を聞いていた。
数時間、少年に色々なテストを施し、結果をまとめた。
少年は、今、鎮静剤で眠っている。
僕は、自分がまるで悪いことをしてしまい、それを黙ってる子供のような気分になる。
「チーフ、やっぱり、この実験は倫理にはんします!!」
「だから、どうした。君は、それを承知の上で、我が研究所に入所したんだろう?」
「しかし、はじめの契約書にはそんなことは書いてありませんでした」
「気に食わないなら、やめてくれて結構、優秀な人材なのに、残念だ」
僕は黙って、研究室の扉を開け、外にでた。
もう、ここへ戻るつもりはない。
そして、僕は被検体隣った少年を連れ、研究所を逃げ出した。