ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

23.策略

「あんたが、青緑色の瞳の人殺しか。」
真っ青な瞳の少年が、あたし達を見つめ居ていた。
シュウシュウが、あたしの盾になるように少年の方へ歩み寄っていった。
「ふぅん、確かに、キレーな青緑色だね。で、あんたは自分が生きてた頃の名前で、人間に混じって暮らしてるんだ?」
青い瞳を細めて笑う。
シュウシュウが少年の前に立つと、丁度頭ひとつ分ぐらい違って、シュウシュウが少年を見下げる形になる。
「あの時、君が死んでしまったのは、計算外だったけど、まさか、また俺の前に現れるとはね・・・復讐・・・って、取って良いのかな。だったら、好きにして良いけど、この子だけには手を出さないでくれ」
「知ってるよ、家に居たちびに聞いたから。その子、ヨシダスズミの魂を持つ人間なんだろ?それで、あんたは、あのちび探してるわけだ。ちびも、あんたを捜してた。」
「不完全な、ヨシダスズミ。俺、というか、生前の俺を思う気持ちだけが残った、俺みたいな存在。でも、あいつは人を殺したりしないし、人の魂が必要ない、ただ、自分の存在を認めてくれる何かが、必要なだけだ。そいつが、なぜ、お前の所に?今、どこにいる?」
シュウシュウは目を細めながら、少年に近づく。
少年は、身じろぎもせず、その、青い瞳をシュウシュウにむけたまま、笑っている。
「さぁ?知らない、俺が死んだとき、あいつは俺の魂を今みたいな状態にした。それっきり見てないよ。それに、もう、興味もない。俺はただ、あんたともう一度会いたくてさ」
「なぜ?」
少年は、笑う。
「あんた、私利私欲のために、死神の力を使ってあんなに人を殺したのか?あんたが憎むべきは俺達兄弟じゃなく、俺の父親のはずだったろう?それが何故、あいつの側につき、あいつを殺そうとしてた俺達のことを殺そうとした?」
「昔のことだ、あの時の俺は、どうかしてたんだ本当に」
「たとえば、もし、俺があんたみたいに実体のある体を持つためには、一体いくつの魂が必要になる?」
少年の目が、俺の目をのぞき込んだ。
「なぜ?そんなこと知ってどうする?お前、俺のようになりたいのか?」
「いや、何人殺したんだろう・・・って思っただけだよ。たとえば、その魂を俺がもらったら、俺は変われるの?」
「試したことはない、が、何かしら変化はあるだろう?」
俺は口元だけ笑い、少年を睨んだ。目だけはまっすぐ、少年を見据える。
少年はただ黙って、視線を返す。
雨が降ってきた。
「うってつけの天候だ」
少年が口を開く。
獲物を狙う、猫科の動物のような瞳で俺を見つめる。
「そうだな,でも、天気雨だ」
空を指さすと、少年も空を見上げた。
「ふん、天気雨かよ、運がわりぃな、俺。よりによって。」
少年は俺に背を向け去っていった。

「シュウシュウ、天気雨だとなんで運が悪いの?」
あたしがシュウシュウに聞くと、シュウシュウは笑いながら言った。
「死神の力と、人間の力が反発しあって、プラマイ0になっちゃうからだよ。魂は抜けるけど、吸収できない。でもって、魂を抜いて時間が経つと生命力の強い魂はかってに肉体に戻ってしまうし、弱いのはそのまま死んでしまう。死神にはどうにも出来なくなっちゃうって訳だよ。だから、普通天気雨だと死に神は力を使わない。自分の利益にならないからね。さらに言わせてもらうと、さっきの子、俺の魂欲しがってただろう?」
シュウシュウは瞳の色は変わってるけど、優しい表情のままにっと笑う。
「あぁ・・・だから・・・へぇ・・・死神って天候に左右されるんだ。変なの」
あたしも笑う。
「でも、やっかいなことになったな。」
「なんで?」
「この地域に死神が二人も居るんだぜ?しかも片方は、新米だし。」
「あ、そうか・・・」
あたしは、シュウシュウの手を握る。
「とりあえず、帰ろうよ」
シュウシュウはあたしの手を握り返した。

1, 伝染
2, 釦
3, 名前
4, 雨の日
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