ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

82.プラスチック爆弾

真下蜜雪は、相棒の上杉真一と共にストーカー殺人未遂の容疑者が、潜伏していると思われるアパートの張り込みをもう、丸2日はしていた。
真下はシートに深く座り、ため息を付く。
そこへ、相棒の上杉がコーヒーとコンビニの袋を持ち助手席にどかっと座り込んだ。
「なぁに、溜息ついてるんすか?真下さん」
真下は容疑者の潜伏し居ると思われるアパートから視線を離さず、頬杖を付いたまま片手でコーヒーをむしり取る。
「もし、お前が犯人で警察に張り込みされてるって気が付いたら、はじめになにをする?」
真下はコーヒーのプルトップを空け、口に運ぶ。
上杉は思案しながら、片手でコンビニ袋をあさり、真下に弁当を手渡す。
「俺なら、気が付かれないように逃げます・・・」
「いや、そうじゃなく、お前がこの事件の犯人だったら、って話だよ。この事件の犯人は、火器。爆弾や銃器に詳しいだろう。とりあえず、逃げるために、俺達・・・張り込んでる人間の目を欺こうとするだろ。たとえば・・・」
「アパートごと爆破する、とりあえず、張り込み警官を、つまり、俺達を始末する。そうすれば一時でも警察の目をのがれられる・・・安易かな」
上杉はペットボトルのふたを開けながら呟いた。
「案外そんなもんだよ、人間ってのは結局今現在、目の前にある障害を取り除きたくなる。誰だって目の上のたんこぶは邪魔だろう?」
真下は、そう言いながら弁当を口に運ぶ。
「ま、いいや。とにかく、張り込みだからって俺達がまるっきり気づかれてないわけじゃないって事だよ。見張られてる側も危険だけど、見張ってる側も同じくらい危険なんだよ、こんな異常なヤローだと余計な、なにしでかすか解ったもんじゃねぇよ。」
「そうっすねぇ・・・16の少女をストーカーする、45の大人。いかれてるよ。しかも、爆弾おたくときてる。」
上杉が、呟く。と、真下が続ける。
「散弾の入った、小型爆弾をその、ストーカーさんの愛しの少女に送りつけて破裂させたんだ、その代償は必ず払わせるよ」
その時、犯人が潜伏していると見られる部屋のドアが開いた。
何か黒い物体を持ち、こちらに向ける。
その瞬間、真下と上杉は車の窓よりも下に伏せた。
しかし、弾は届かなかった。
銃の機種は確認できなかったが、できの悪い改造銃だろう。
音が止んだことを確認すると、無線で応援を呼び、真下と上杉は頭を低くしたまま、アパートとは反対側のドアからゆっくりと降りた。
「上杉は車の後方から、駐車場から回り込め、俺はベランダの方からいく、銃は抜いておけ」
「了解」
上杉は、上唇を舌で湿らせながら、車に背中を付けてアパートの様子を見る。
そして、銃を両手で持ち地面に向けたまま、走る。
真下は上杉が飛び出したのを確認すると、車の前方から、様子を見てアパートの正面側ベランダの方へと回り込んだ。
容疑者の潜伏先は、103号室。
真下は、ベランダに入り込み、壁を背にし、窓から様子を見た。
その様子を、犯人も同じようにこちらを見ていた。
一瞬真下は驚き、壁に隠れる。
ふっと、笑みがこぼれる。
ストーカーはなんでもお見通しかよ。俺のストーかでもないのに?
銃をいつでも撃てる状態にセットし、地面にむけ、頭だけ窓の方へむけたまま叫ぶ。
「森田芳三、武器があるなら武器を棄てて、ベランダから出てこい。」
森田はベランダのサッシを少しだけ開ける。
そして呟く。
「やだね」
「よく考えてくれ、ここで武器を棄てて出てきたらあんたの刑は・・・」
「関係ない、あの子がいけないんだから、俺は、正当防衛なんだよ」
「そうだよな、あんたは悪くない、だったら出てきてくれよ」
「もう、無理だよ、さっきとっておきの爆弾が出来たばっかりなんだから。」
「とっておきの爆弾って・・・?」
玄関側にも聞こえるように、大声で叫ぶ。上杉、お願いだからこの会話に気が付いてくれ・・・。
真下はそう、祈りながら、さらに会話を続ける。
「どんな爆弾なんだよ」
「C4。粗悪品じゃないぜ。こんなアパートすぐにふっとんじまう。俺の部屋は一階だからあれだな、吹っ飛ぶというか、崩れると言った方がいいかな。」
「C4ってなんだよ?」
「んなこともしらねぇのか、警察なのに。コンポジション4のことだよ。名前ぐらいは聞いたことあるだろ?」
知らないわけがない、同じ爆薬を使ってしばらく前に国際指名手配犯が大使館を吹っ飛ばしたばかりだった。
「軍用のプラスティック爆弾だよ。火の中に入れても、振動を銜えても爆発しないが、TNTの1.4倍の威力があって、100gもあればこんなアパートいちころだ。手に入れるのに、少し手間取ったがな。」
森田は、少し得意げに爆薬について説明した。
真下は、目を瞑って息を吐き、声をかける。
「そんなもん、吹っ飛ばしたら、お前も死んじまうぞ?良いのか?」
「はっ、関係ないね。なにもかも、あの子がいけないんだ、俺を誘っておいて、無視するから、なにもかも、そう、なにもかもだ!!」
「落ち着けよ、ほら、俺も、銃を棄てるから、お前も、そのスイッチを・・・床において・・・」
「やだよ、絶対に」
俺は、さっしの前に立ち、ゆっくりと銃を床に置いた。台所の窓から上杉が覗く。俺は、目で、爆弾の位置と、犯人の一を合図する。
「お願いだ!!ほら、俺は、なにもしないから・・・」
俺の大声に合わせて犯人に気づかれないように、上杉が玄関のドアを音を立てないようにゆっくりと開け、部屋に進入する。
犯人は俺に気を取られていて、上杉の存在には気が付いていない。
上杉はゆっくりと犯人の背後に近づいた。
それにしても、応援が遅い・・・と、言うか、今応援が来られても犯人を刺激するだけだろうが。
「その、スイッチを、床に置くだけでいいんだ、お願いだ。これから、多分、応援が来る、だからそれまでに・・・お願いだから。応援に来る奴らは、あんたを殺す気だろう。だから、スイッチを・・・」
出来るだけ、慎重に、言葉を選んだつもりだ。
「駄目だ、やっぱり、駄目なんだ」
と、言い森田が、ボタンを押そうとした瞬間に、上杉が飛びかかりスイッチを取り上げる。すかさず真下が犯人を取り押さえる。
「嘉納美智子殺人未遂の容疑で逮捕する」
森田の手に手錠かかけられる。と、同時に応援のパトカーのサイレンが聞こえた。