ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

27.電光掲示板

何かの色がはじけた。
まるで電光掲示板が映し出す緑色や、オレンジ色の光のように勢いを増して流れていった。
頭蓋骨の中身が、痛みを訴える。
感覚がおぞましいものに変わる。
神経過敏になっている、というのだろうか。
ちょっとした刺激が、何倍もの刺激になり、頭蓋骨の中身に響く。
そこに、音楽を流し込む、快感を知っている。
外の音が聞こえないくらいに、音楽で耳を塞ぐ。
電光掲示板のような色は、やがて瞼の裏で実体に変わる。
沢山の人が、瞼の裏で短い演劇を演じるように。
幕を下ろすように、景色を替える。
そして、自分は、笑っている。
気味悪く、顔を歪ませて。
息を止めて、次の音まで待って、息を吸う。
瞼を開けば、別人のできあがり。
電光掲示板に書かれていた言葉を、呟く。
呟く声も、別人。
やがて、頭蓋骨の中身の痛みも消えている。
苦しんだあとも、何もかもが自分のものじゃないみたいな感覚になり。
黙れ、黙れ、黙れ!!
黙って、俺の話を聞け!!
何もかも、壊れちまえ!!
また、誰かが笑った。
知らない顔で、笑った。
掌を見ると、それは偽りもない、自分の手。
また、電光掲示板の光が頭の中を駆けめぐる。

雨が降っていると見る、そいつの姿に似ている。
雨の日に聞く、あの声に似ている。
手を伸ばしても、絶対に届かない。
朝起きると、そいつはいつも自分の側に座っている。
そして、いつも嫌な言葉を呟いて、陥れようとする。
雨の日に、かさの隙間から見た、自分の顔に似ている。
何も考えられなかった、子供だった、自分の顔に似ている。
何もかも、消してしまいたいと願った。
そうだ、何もかも。
自分さえも、消してしまいたいと願っていた。
ずっとずっと。
あいつはまだ、笑うだろう。
俺のために、笑うだろう。
低い声で、まるで自分の声じゃないみたいな声で。
囁くだろう。
その囁きは無視できないくらい、甘美なものだろう。
それに、したがってしまいたくなる。
そうすれば、楽になるから。
楽になって、何が悪い。
自分の心臓に、ナイフを突き立てる夢を見るよりは、はるかにましなことかもしれない。
しかし、その夢もそいつの仕業だ。
自分の心臓に、ナイフが突き刺さるその瞬間のなんと甘美なことか。
夢なら、夢のままで。

電光掲示板の文字は読まないように。