ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

20.合わせ鏡(双子の鬼の話し)

「遙さん、起きてください、遙さん!!」
僕は、羽澄梅といいます。
で、こっちの金色の目、白い髪、黒に紅い裏地の着流しを着たゴーグルを着けてる何か寝てる人が、山本遙。
「あ、なんだ、お化けでもでたのか、梅。お化けぐらいでぐだくだ騒いでたら、これから先、お前他の鬼にあっても、何も出来ねぇぞ」
そう、僕たち、鬼なんです。
ごっこの鬼とかじゃなくて、本物の、鬼なんです。
それで、今僕たちは人間達に追いかけ回され、駆除され、絶滅寸前なんです。だから、仲間を捜すための旅に出て居るんです。
「違いますよ、鬼です、鬼。さっきからずっと、こっち観てるんです。しかも、双子」
遙さんはぽりぽりと頭をかきながら、ゴーグルを頭にかけると、金色の瞳が獣のように光った。
しかし双子はひるみもせずに、じっとこちらを見つめていた。
「なぁんか、むかつくな。」
「遙さん、ちょっかい出さないでくださいよ、トラブルになるのは・・・」
言うが早いか、遙さんはいつもの釘バットを持って、ふたごの方へかけだしていた。

「おい、てめぇら、何で俺等のこと監視してんだ?」
やっとのことで、僕が遙さんに追いつくと、怯える双子の前で釘バットをかざしながら遙さんが問いただしていた。
双子は怯えた風で、何も答えられずに震えていた。
よく見れば、桜色の髪に銀色の瞳の人間の年齢で言ったら10歳ぐらいの女の子の鬼だった。
片方は、おかっぱの髪、片方はウェーブのかかった、セミロング。
「遙さん、怯えてるじゃないですか!!」
僕が遙さんと双子の間に割ってはいる。
「梅、こいつ等は・・・」
「かわいそうじゃないですか!!」
言い切るか、言い切らないかのうちに、僕の背中に痛みが走る。
身体に力が入らない、僕は何が起きたか解らないまま、落ち葉の敷き詰められた地面にうつぶせに倒れた。
「梅!!てめぇら!!梅に何しやがる!!」
遙さんは、僕を飛び越して双子の方へ飛びかかる。
ぼんやりとしたまま、僕は双子の方を見つめた。
遙さんの影になって見えないが、辛うじて見える双子の片方が、血に染まった小刀を持ち、嫌な笑い方をしていた。
「そんなに怒らないで、早く、お友達の手当てした方がいいんじゃない?死んじゃうよ?あたし、ちゃんと急所狙ったから。っていうか、天然の鬼さんってあたし達みたいな試験管ものより強いんだっけ?あたし、嫌いなのよね、天然の鬼。あいつ等が居るからあたし達が粗末に扱われるんでしょ?」
「っるせぇよ!!」
遙さんは、小刀を持ち、ぺらぺら喋っていたおかっぱの方に向かって、バットを振り下ろした。
少女は、ひらり、とバットをかわし遙さんの懐にはいる。驚いた様子の遙さんを上目遣いに見つめ、笑う。
「あんた何番?あたし等と同じ、試験管ものでしょ?あたしは16番、で、林檎が17番。多分、あんたより古株だと思うけど」
「ガキの癖に、馬鹿なこといってんじゃねぇよ、舐めてんのかよ!」
「ガキはあんたよ、あたしより、明らかに番号下ね。何にも解ってない。そうね、295番かしら?」
遙さんが困惑する。
「なぜ、俺の番号を知ってる?」
ウェーブの髪の方が、無表情のまま、言葉を繋ぐ。
「あなた、有名だもの。天然の鬼の遺伝子を操作して、人間と混ぜた。あんたの元になった遺伝子、そこに寝てるガキの弟のだよ。でもって、人間のが・・・」
「るっせぇ!!てめぇら、ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」
再び、バットを振り回すが、少女達は動じない。
ただ、笑っているだけで、換えって気持ち悪かった。
「認めなさいよ、ちゃんと。あんたがこの世に出てこれたのは、そのガキの兄弟の命と引き替えよ。295番は特別だって、あんたの親が言ってたわ。あんたの人間の親は、研究所の所長よ。あんたを生み出したね。」
遙さんの金色の瞳が細められる。まるで、獲物を狙う狼のようだ。
「あんたは、特別なのよ。あたしが知ってる限りでは、あんた以外に天然の鬼と人間の遺伝子を組み込んだ鬼を知らない。結局失敗作だったけどさ、あんた。だって、研究所から逃げ出してきたんだろ?キレーな目してんじゃん。」
双子の片方が、遙さんの目をのぞき込んだ。
遙さんは、容赦なく、少女を殴ろうとしたが、少女は交わしてしまう。
そこへ、人影が現れ、怒鳴りつける。
「姫菜(きな)林檎、それぐらいにしな。梅が死んじまうじゃないか!!」
姫菜と林檎はその人影の後ろに隠れる。
「桜ねぇさん!!」
遙さんが驚きの声を上げると、桜ねぇさんは僕の方へやってきた。
「ひどいざまだねぇ、梅。ほら、あたしが治してやるから、じっとしてんだよ」
傷口に手を当てると、僕の傷が見る見る塞がっていく。
「ねぇさん・・・何で?」
僕は、弱々しく起きあがりながら、呟いた。
「最近、あんた等二人があたしに内緒で何かやってるみたいだから、ちょっと気になったんだよ。姫菜と林檎には探るだけで良いって、言ったんだけどねぇ、こいつ等、血の気が多くてさ。ゴメンよ、梅。あんたに怪我させるつもりはなかったんだ。」
姉さんは謝ったが、僕はなんだか腹が立った。
「怪我所か、僕は死ぬところでしたよ!!全く!!」
僕が怒ってみせると、姫菜と林檎が寄ってきて、傷のあった箇所をさすった。しかし、僕は、まだ二人が小刀を持ったままだったので、急いで飛び退いた。
「遙、あんたびっくりしただろう。もっと早くこのこと伝える気だったんだけどねぇ。まさか、こいつ等が勝手にぺらぺら喋るとは・・・」
遙さんに語りかけるが、遙さんは、俯いてバットを握りしめたまま動かなかった。
そして、やっと声を絞り出す。
「ねぇさん、俺は、ホントに、こいつの弟の遺伝子と所長の遺伝子で出来てんですか?ねぇさん、あんたが俺を拾ったのは、そんな理由からですか?俺は、あんた以外の人間からそんな話聞いて、これからどうやって居ればいいんですか?あんたを信じてたのに」
「そんなの、お前も一緒だろう?あんた、梅の角折っただろう。梅の角がどれだけ貴重かしってんのかい?馬鹿が。感情だけで梅を傷つけるからだよ。ちょっとは身にしみなってもんだ」
姉さんは、肩に掛かった桜色の髪を後ろにのけながら言った。
遙は、その場から動かなかった。
姉さんは続ける。
「ま、これでお互い様だろう。帰るよ。それと、あたしもあんた等が探してる、梅の仲間。さがしてんだよ。今度から、あたしも誘いな。出かけるときは、姫菜か、林檎につたえな。この子達はあたしの家にいるから。」
そう言うと、姉さんは手を振りながら去っていった。
15姉さん
295遙