ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

44.バレンタイン(レスタトとニコラこの時代にはまだなかったんだけどね)

「もう、君はまた無駄遣いをして!!君が使ってきた金があれで最後だったんだ!!なけなしの金だったんだよ!!それを・・・こんなものに・・・」
「いや、だって・・・ほら・・・バレンタインだし・・・」
ニコラの怒鳴る顔に半ば見とれながら怯える私は、自分の人差し指をあわせながらもじもじと抗議しようとしたが、彼はそんな隙を私に与えてはくれなかった。
「だってもクソもあるか!!この、馬鹿!!」
私は、このまま、ニッキーが冷めるまで怒られ続けなければならないだろう。
いつもの、あれだ、好意が裏目に出てしまうという。あれ。
「よりによって、ガーナチョコならまだしも、ゴディバのチョコ!!こんな少量で腹がふくれますカー?ね、解ってるんですか、コノヤロウ、ボク、人間、あんた吸血鬼、価値観微妙にずれてるのは解るけど、何で、妙に人間の味覚覚えてるんですか。っていうか、こんな少量のチョコより、僕はもっと日持ちする食料が欲しかったんだよ。もう、明日からどうすればいいんだ。楽譜の原稿料だって、まだ入らないのに!!」
「済みません・・・」
ぽそり、と呟いてみる。怒った顔も、また美しいのだけれど・・・怒ったときのマシンガントークがいただけない。
「済みませんじゃないよ!!どーしてくれるンだよ!!明日から何くえって、給料日まで、あと20日だよ!!前回の給料日から約10日しか経ってないんだよ!!僕の給料の殆どは、君の服代とか、色々に使われちゃってるんだよ!!っていうか、吸血鬼って、金かかんないんじゃないのかよ!!」
にゃーっと、床にうづくまる。ニッキーも可愛い。
「な・・・何にやついてるんだよ、っていうか、何企んでるんだよ」
「や、だったら、君も吸血鬼にならないかい?」
決まった・・・ニッキーから観たら、私はきっとヒーローのように見えただろう。
が、しかし、ニッキーはいきなり殴りかかってきた。
「ふざけるな!!何で、僕が吸血鬼にならなきゃいけないんだ!!」
「そうすれば、人間の食べ物を食べなくて済むじゃないか!!」
私がにっこり微笑むと、ニッキーは後ずさりながら目をそらした。
「人間の食べ物を食べなくて良くなるけど、人間を食べなきゃいけなくなるじゃないか・・・」
「と、言うか・・・今、私はお腹がすいている。私が君の血を飲んで、君が私の血を飲めば・・・完璧☆」
「語尾に☆とかつけんじゃねぇよ!!」
といいながらニコラが再びパンチを仕掛けてきたが、私は吸血鬼の力を使い、ニッキーの手首を優しく握った。
「う・・・」
怯えた目も、最高だ。
「戴きますv」
「しょうがない・・・な、僕からのバレンタインプレゼントだ・・・」
命と引き替えとは、高いプレゼントだな、と思いながら、私はかぷっとニッキーの手首に噛みついた。