ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

37.スカート(鈴美)

ちょっと奮発して買った、冬物のスカート。
それにセーターと、ニットの帽子を合わせて、コートと手袋をした。
薄く化粧して、最後に大好きなピンク色の口紅を薄くひいた。
完璧。
時間通り、玄関の前で、あたしは秀ちゃんを待っていた。
秀ちゃんは、いつも通り10分遅く到着。許容範囲内かな。
「鈴美、ゴメン、おはよう」
「おはよう、秀ちゃん」
秀ちゃんは、灰色っぽいコート、チェックのマフラー、白いシャツ、中には、黒いタンクを着てるみたい、ダメージジーンズをはいてるけど、ダメージ部分に赤いチェックの布が貼ってある。
眼鏡のフレームがいつもと違って、何か、可愛かった。
「寒い・・・」
コートのポケットに手を突っ込んだまま、ふるふる震えながら呟く、秀ちゃん。
「ほっカイロ貸してあげるv」
あたしが秀ちゃんにカイロを渡そうと手を伸ばすと、カイロごと私の手を握って、口をとがらせそっぽを向いた。
「あったかい」
あたしは秀ちゃんの手を握り返す。
空は綺麗な空色。雲一つなかった。

街はきらびやかにクリスマスの模様。
あたし達は映画館に入って、2時間たっぷり映画を見た。
クリスマスだからって、別にロマンティックな映画を見た訳じゃない。笑われるかもしれないけど、B級ホラー映画。
秀ちゃん曰く、ホラー映画はB級ぐらいが突っ込み所満載で面白いらしい。
映画を見て、あたし達は食事をしたり買い物したりして、さっきの映画館の前を通りかかったときだった。
人が、秀ちゃんにぶつかった。
秀ちゃんは繋いでいた手を離し首だけ振替って、ぶつかってきた人を見る。
背中に手を回して、あたしには何してるか解らなかった。
あたしは、ぶつかってきた男の手を見る。
秀ちゃんは背中に回していた自分の手を見る。
血。
秀ちゃんは男の方へ一歩踏み出そうとしたけど、一歩目で足がもつれて、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
そのまま仰向けに転がって、秀ちゃんは空を見上げていた。
あたしは、泣きながら秀ちゃんに駆け寄ったけど、何も出来なかった。
あたしが秀ちゃんの所に辿り着く前に、男が秀ちゃんを抱えてそのままどこかへ行ってしまったから。
あたしは、秀ちゃんが倒れていたところにへたり込んだ。
秀ちゃんの血が、あたしのスカートを赤く染めた。
いつの間にか曇った空から、白いものがふわり、ふわりと舞い降りる。
あたしは空を見つめる。
あたしは、無力だ。