ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

33.白鷺

「何のために生きてるってさ。足掻きながら戦うためだよ。生きるために」
俺の問いに古都治はそう答えた。
たばこの煙が、青空に溶けていく。
「学習したんだよ、色々あって。つか、葵春何でそんなはずかしー話俺にさすんだよ」
「たまにはあんたの考え、聞いてみようと思ったから。」
俺は屋上のフェンスに寄りかかり、古都治を見ずに言った。
古都治は俺の、2つ上の異母兄弟で容姿は俺の嫌いな父親にそっくりだった。
だから、というわけでもないが、俺は古都治が苦手だ。
煙草をもみ消し、古都治は立ち上がって、俺を見つめた。
俺は立ったまま、自分の足下を見つめていた。
「葵春は何で?」
「わからない。」
俺は素直につぶやいた。
フェンスから背を放し青空を見つめた。
古都治はたぶん、俺の次に言いたい言葉を見透かしている。
でも、あえて口に出してみる。
「だから、あんたに聞いてみた。あいつの、あのサイコヤローの遺伝子が自分の中にあるんだ。それなのに今のあんたは、毎日楽しそうで、何も考えてなさそうだった。だから。」
古都治は笑う。
「なにも考えなかった訳じゃない、あいつは俺の目の前で人を殺した。それでなにも考えなかったと思うか?葵春が思ってるより、色々考えてんだよ、俺だって。」
「そんなのわかってるけど、あんたが余りにいつも楽しそうだから・・・」
古都治はフェンスに寄りかかりながら、再びたばこに火をつける。
俺は古都治をみつめていた。
「それもあがいてるっつーの。楽しく生きたいだろ?死ぬまでは。」
古都治は、穏やかに笑っていた。
俺は、また空を見上げた。
空は果てしなかった。

ある日、白鷺が一羽水辺に死んで朽ちていた。
こいつも、生きるために足掻いたのだろうか。
生きるために、生きたのだろうか。
俺が考えてるよりも、世界は遙に複雑だ。