ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

91.サイレン

頭の中で大きく鳴り響くサイレンに、誰も気が付かない。
『頭の中のサイレンなんて気にすんなよ、幻聴だ。』
黒い髪の深緑色の瞳の男が俺を見つめていた。
『誰?』
男は笑う。
『知ってるはずだろう?お前は、俺を。』
男が俺を見据える。その視線に俺はとまどい、男から視線を外す。
また、笑う。
『お前も薄々感づいては居たんだろう?俺の存在に』
俺は、いつも俺が知らない内に俺の体や、服が血にまみれていたのを思い出した。
俺には血が付いた理由が全く解らなかった。
いつも気が付いたら、真っ赤に染まっていたのだ。
多分、あれだけの血が付いたんだ、何か人にしろ、動物にしろ、何かが死んだに違いない、それくらい沢山の血だった。
けれど、何日経ってもそう言った報道はなく、警察が俺の家に尋ねてくることはなかった。
『お前の体についた血の正体、俺が殺した人間の物だ。俺は死神で、お前の体をかりて、人を殺していた。最終目標はなんだか解るか?』
俺は、一番恐れていた言葉を口にした。
『俺の、親友』
男は参った、と言う風なリアクションのあと、笑う。
『あたり。とある筋に頼まれてね。』
『俺は絶対やら無い。』
『誰がお前になんて頼むかよ、お前の体で、俺が全て片を付ける』
『だったら死んだ方がましだ!!』
俺は、叫びながら、男の襟首を掴んだ。
『じゃ、死ねよ、俺の糧になりな、たとえお前の魂が死んだところで、お前の体は俺の魂が制御してる、だから、何ら問題はない。』
「馬鹿だな、俺だって、それぐらい知ってるよ、だからこうするんだ」
俺は頭の中じゃなく、口に出して呟いた。
手には先日手に入れた拳銃。
こめかみにそれを押し充てて、トリガーを引いて・・・。
意識が飛んだ。

自分を放棄することが、どれだけ自分にダメージを与えるか、この少年は知らない。
まだ、しばらく俺の糧にはしないで、眠らせておこう。
もしかしたら、俺達がしくんだゲームをもっと楽しい物にしてくれるかもしれない。
俺は瞼を開く。
いや、俺の体じゃないから、一体誰だろう。
瞼を開いて、握りしめていた拳銃から指を引き剥がす。
手が汗ばんでいた。