ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

97.アスファルト

黒いアスファルトを白い雪がどんどん覆い隠している。
俺は、薬を飲み過ぎて、ふらふらの足取りで薄い雪の膜に足跡を付ける。
さらに気分が悪くなって、その場に膝をついた。
氷の様に冷たいアスファルトに体が吸い込まれたかのように、倒れる。
地面を観ているのはいやだったので、今できるだけの力を使い、自力で仰向けに転がる。
夜の灰色の空を見上げると、雪が降ってきて、いくつも俺の上に着地した。
まるで、桜の花びらか何かのようだった。
桜吹雪とはよく言ったものだ。
夜空に浮かぶその白は、俺の体温を奪い、俺の色を奪っていった。
桜の木の下の死体のように、雪という花びらは俺の上に降り積もり、俺を吸収していった。
灰色の色のない世界。
もう、見えない、動けない、声すら出せない。
アスファルトは堅く冷たく俺の下敷きになっている、この、しょうもない肉体の下敷きになって、冷えている。
この、凍えた肉体の、生命活動が止まるのはいつになるのだろう。
この、凍えた肉体から、解放されるのはいつになるのだろう。
まるで、音楽を奏でるように、パソコンのキーボードを叩いていた指も、俺の思考も、何もかもが、言うことを利かなくなっている。
目は、見開いたまま、狭まった視界の先をずっと見据えている。
苦悩した、若い作家の死。
まるで、大正、昭和初期のようじゃないか。
眠っているのが、吹雪の中ではなく、桜吹雪だったらアスファルトの上でも幸せだったかもしれない。
血が、凍っていく。
アスファルトの上で、凍っていく。
その、最後の瞬間、ただの吹雪が桜吹雪に変わった気がした。