ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

66.666

真っ赤な目をした化け物かと思った。
あぁ、あたし知ってる、この子はきっと吸血鬼だわ。
その子はあたしと目があって、唇を片方だけつり上げた。
多分、笑ったつもりなんだと思う。
秀ちゃんはあたしをかばうように前に立っていた。
「あぁ、真下秀か、丁度よかった」
その子の低いけれど透き通る声が冷え切った公園に響く、この空間に何てぴったりな声なんだろう。
あたしは秀ちゃん背後にいるから表情は読みとれないけど、秀ちゃんの瞳はきっと綺麗な深緑色になってるはず。
秀ちゃんは答えない。
「試してたんだ、死神の殺し方を」
秀ちゃんの向こう側では何が起きてるんだろう。
あたしの方からはあの子の顔しか見えない。
だからあたしがひょいと覗こうとした瞬間、秀ちゃんに抱きすくめられる。
「見ちゃダメだ」
低い声、少し震えてる。
「良いじゃん、その子も 関 係 者 なんだろ?」
「ダメだ」
視界はふさげても、音は防げない。
くぐもった悲鳴。
苦しそうな吐息。
何かを引きちぎる音、そのあとにガムをくちゃくちゃ音を立てて噛むような音。
何が起きてるのかは理解できないけど、多分もの凄く悪いことが起きてる。
たとえばそう・・・。
「考えるな」
秀ちゃんの声で我に返る。
何で分かるの?秀ちゃんは超能力者なんかじゃないのに・・・ただ、ちょっと、かわってるだけ。
「あんたは知ってたね?死神がこれまで殺した人間の魂は、死神の眼球に蓄積されて死神の力となるんだ。だから、死神が他の死神の目を喰えば、そいつの力が取り込める、便利な仕組みだろう、かなりぐろいけど」
あたしは両目がぽっかり空いた人間らしきものが消滅するところだけを見た。
「だから、どうした?今更・・・」
赤い瞳がさらに深く赤く変化したみたい。
「今更、あんたも同じ事をしたんだろう?人を殺し人を殺した死神を殺した、俺も、あんたに殺された」
秀ちゃんは目を細める。
「君は殺す予定じゃなかった。勝手に、やつが君に銃を突きつけて撃ち殺した。ただそれだけだ」
「でも、裏であんたは動いてた、あんたもあいつと同罪だよ」
自嘲気味に笑う彼。それを見据える秀ちゃん。
「復讐?前にも聞いたけどその時は違うって言ってたよね。実験だって」
赤い瞳の彼の透き通る声と、秀ちゃんのやわらかい声が交互に飛び交う。
ちょっと不思議な感じ。
本当に、二人は死神なの?秀ちゃんは全力で否定してるけど。都市伝説に出てくる死神ってこんなに居るの?
訳が分からない。
「実験だよ、確実に。だから、死神の中で一番力を持つあんたをつけねらうんじゃないか、あと、そこの特別な娘」
赤い瞳が悪戯そうに微笑む。
「壬原千郷・君は、本当に吉田鈴美なの?」
あたしに向けられる赤い瞳。
「知らない」
本当に知らない、だから怯えた声でそれだけを返すので精一杯だった。