ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

76.影法師

頭から冷水をかけられて俯いたまま、薄目を開ける。
気が付くたびに殴られていたので、口の中は傷だらけで目もまともにあかない状態だった。
銃口をあごの下に押しつけられて、髪を鷲掴みされる。
畜生。
悪態を口にする気力すらない。
「死体は?」
俺の目と鼻の先でスキンヘッドのいかにもな感じの男が俺に問いかける。
俺は馬鹿にしたように力無く笑う。
「しらねぇな」
あごの下のSIG P229の銃口がさらにあごに食い込む。
そのいかにもな男は、そんななりで警官の制服を着ている。
警察がこんなだから、俺みたいな悪党が街に溢れかえる。
「もう一度、これが最後だ」
男は俺の目を見つめる。目がマジだった。
「殺せばいい」
男は俺を殴る。
口から血を流したまま、また俯いた。
イスに縛り付けられたまま、俺の血で染みだらけになったカーペットをぼんやり眺める。
新たに流れ出た血液が、茶色くなった染みの上に真新しい染みを付けていく。
畜生。
なんで俺がこんな目に・・・・男を思いきり横目でにらみつけてやった。
いつだって、俺はこんな風に社会であったり、権力であったりそんなのをにらみつけてたけど、今までになく、憎しみをこめてにらみつけてやった。
そんな俺を見て、男は目が気に食わなかったらしく、俺のこめかみに銃口をこすりつけた。
と、その時突然ドアの蹴破られる音と共に、長身の男が飛び込んできた!!
「まぁぁぁってぇぇぇぇいっ!!悪党め!!」
俺は、一瞬どこのお奉行様かと心の中で突っ込んでしまったが、この際あまり考えないことにした。
長身の男が、ぽかーんとしている制服の男の胸の辺りを蹴るとあり得ないくらい吹っ飛んだ。
長身の男は、制服の男が持っていた銃を手に取り、銃口を制服の男に向け、勝ち誇ったように笑った。
「俺はセメダロン31!!接着剤とアイスクリームをこよなく愛する正義の味方だ!!」
なんだ、こいつ。
容姿は男の俺から見ても格好いいと言える感じだけど、発言がめちゃめちゃカッコワルイ。
セメダロン31は、銃を向けながらも自分のズポンのポケットをポンポン叩いている・・・何かを探しているようだったが、右ポケットからセロテープを取り出すと、男の両手を後ろ手にまとめて親指どおしをまとめてくっつけた。
・・・マンガで読んだ昔の不良みたいだ。
セメダロン31が俺に気が付いて笑顔を向ける。
「もう、大丈夫ですよ・・・キュウさん」
なんで、俺の名前をしってんだ?俺が訝しげに見つめると、セメダロン31は俺を縛っていた紐をほどく。
「あぁ、ハチさんからの要請です・・・弟のキュウさんが大変な目に遭ってるとのことだったので・・・大変な所なんて行きたくなかったんですけどね、もの凄くいやだったんですけどね、は・・・ハチさんが・・・ハチさんの方が怖いですからね・・・おっとハチさんからの通信です。」
セメダロン31は通信機になっている耳を取り外した・・・ハッキリ言って、ウザイが仕方がない、つか、こいつ人造人間だったのか。
「ひーさーしーぶーりーっvきゅーくんvどこ行ってたのか心配になったからー世界のあらゆる機関を使って調べさせたのーそしたら、アメリカでやばいことになってたみたいじゃん。だから、攻めさんを派遣したの」
ありえない、この女腐女子のくせに仕事相手(もっともなんの仕事をしてるかしらん)が世界中の公的な機関を相手にしてるらしいので、こんな事がお手の物らしい・・・(お手の物ってどんな仕事だ、本当に)
「っていうか、これ・・・じゃなくて、セメダロン31ってなんなんだよ」
「えっと、家で一番役立たなくて、顔だけ攻のロボよ。」
顔だけって、何かめちゃめちゃ格好良かったすよ。キメを除いて。
「ちょ、ちょっとまってくださいよ!!ハチさん!!俺は、掃除も洗濯も某猫型ロボや某蛙宇宙人よりもパーフェクトに、エレガントに、こなしますよ!!」
「そこがウザいのよ、そのなりで・・・」
ハチの痛烈な一言に、真っ白に燃え尽きるセメダロン31。
「良いから、キュウ、帰ってきなさい。私の所に、メンテナンスして欲しい子が居るの。ちょーかわいいのよーっっvウケロダン69って言ってねぇ、超ツンツンなの、ツンデレに改良・・・ぶっ」
途中で回線が切れた・・・明らかにあっちから切ったようだった。
「ねぇさん、どうしたんだよ、ねぇさん!!」
おれは、いらだち紛れにセメダロン31の耳を投げた。
「うぁぁぁぁやめてくださいよ、耳、投げないでくださいよぅ」
耳を拾いながら叫び、拾った耳を叩いて元の位置に戻した。
「ねぇさんは、ねぇさんは!!」
俺はセメダロン31の肩を掴みながら揺すぶったが、セメダロン31は目をそらしながら冷静だ。
「あぁ・・・いつものことです、おおかたウケロダン69がツンデレに改良されるのが嫌で、電話切っちゃったんでしょう。」
はぁ・・・俺はへたり込んだ。