ひとりがたり

日常のもの・こと・妄想など

62.オレンジ色の猫

オレンジ色の猫を抱えた、白いフリルやレースの沢山付いたワンピースを着たゆる巻きカールの黒髪に、エメラルド色の瞳の女の子が、ピンク色のバラに囲まれた庭を走っていった。
ひとえにピンク色と言っても様々で、サーモンピンク、コーラルピンク、チェリーピンク、沢山の色が庭を覆っていた。
「アシュラム重たいよ・・・」
女の子が猫に向かって言う。どうやら猫の名前はアシュラムと言うらしい。
「ティア・ドロップまったく、あなたはミルクも飲まず、野菜も魚も食べないからそう感じるだけで、私の体重、身長、しっぽの長さは普通の猫とかわりありませんよ」
なんとアシュラムは猫のくせに、まるで紳士のような口調で白いワンピースの女の子、ティア・ドロップに向かって語りかけていた。アシュラムの瞳もまた、エメラルド色をしていた。
「えーだって嫌いなんだもん」
ティア・ドロップは、アシュラムに向かって舌を出しうげ、と言う顔をした。
「ところで、ティア・ドロップ何故私をお庭に連れてきてくださったのです?」
若葉色の芝生にすっと座り、ティア・ドロップの様子を伺うようにアシュラムはしっぽを動かした。
「教えて欲しい?」
微笑むティア・ドロップを見て、アシュラムは首を傾げる。
「今日は、何かの記念日・・・ですか?」
上目遣いに伺いをたてるアシュラムのしっぽは、やはり猫独特の不可解な動きをしている。
「そう、今日はね、アシュラムと私が初めて出逢った日なの・・・だから、アシュラムにプレゼントをしたいと思って、ここまで連れてきたの」
くねくねとしなやかに動き回っていたしっぽが、ぴしっと伸びる。
「そ・そんな・・・ティア・ドロップ私なんかのために・・・」
「ほら、ちゃんと色も形も私が選んだのよ、綺麗なバラでしょ?あなたと同じ、アシュラムというバラなの、これからもずっと、私の友達でいて」
アシュラムは涙目でティア・ドロップを見つめた。
「有り難うございます」
ティア・ドロップは微笑んだ、アシュラムのオレンジ色の鼻先にバラ色のほっぺをくっつけて。