#小説
「神経細胞つまり、ニューロン。それを機械で補うというのですね。」 「そう言うことになるね、だってほら、人造人間って、神経細胞が死んでしまった状態で俺達の元に届くだろ。いつも新鮮な死体が届くという保証はないしね。だから、あらかじめ、神経細胞を…
俺は公園のブランコの上で、ぼうっと日が落ちるのを待っていた。 太陽が沈んで、辺りが暗く鳴り出した頃人の気配がして、見上げると、其処には小さな少女が立っていた。 その子は、金色の髪で色の白い青い瞳の印象的な少女だった。 俺は、気にしない振りをす…
あたしがあの人を喪ってから、今日で一年経った。 あたしは夢を見てるのかもしれない、だって、あたしの目の前に、真下秀が立ってる。瞳の色は違うけど、間違いなく、眼鏡を外した真下秀だった。 「秀ちゃん・・・やっと、出てきてくれた。あたし、秀ちゃん…
僕はコインロッカーで生まれた。 そう信じたい。 女の股の間から生まれたなんて考えたら、気が狂いそうだから。 だって、僕は、コインロッカーに置き去りにされたんだから。 11月在る冬晴れの下で、俺はその女に出会った。 ハッキリ言って、加齢臭漂うおば…
いつからだっけ?私がこの樹海の中に拠点を構えたのは。 もう、忘れてしまったな。 本当に、こどものときだったから。 私がはじめてこの樹海の下に在るナイン-ビレッジに辿り着いたのは、10才の時だった。8才の時、親に棄てられて、9才の時ただ、自分の…
いつも通っているビデオショップがある。 黄色と青の色合いで、ビデオショップのロゴが書かれていて、夜その店にはいるときは思わず目を細めてしまうくらい煌々と灯りで満ちた店内。 今日も私は何気なくそのビデオショップに立ち寄り、めぼしいビデオがない…
横木と田口は大きな木の対面にある滝を見上げていた。 滝の大きさはそんなに大きくはなかったが、滝壺は深く透き通った青緑色。周りには落ち葉が堪ってそのうちのいくつかが、滝の下を流れる沢に流されていく。 ふと、横木の脳裏に息絶えて血の気が失せた少…
さっきから、ルイは空に光る稲光を子供がはじめて花火をみるような、不思議なそれで居て楽しそうな顔で、ずっと見つめていた。 あまりに彼がじっと、それを見つめているので、彼に気づかれず彼を見つめていられるのだが、やはり、いつものように私を見つめ、…
俺が、ずっとずっと昔死神になってからずっと、吉田鈴美を探していた。 俺が、人間だった頃に愛した、唯一の人間だ。 そして、俺が死ぬのを見ていた。最愛の人。 多分、俺が死んでいくのを見ていたから、彼女を俺の後を追って死んでしまった。それっきり、俺…
『あたしをもっと愛して。』 誰だろう、そう言ったのは・・・。 僕が覚えているのは、公園の辺りを歩いているときで、其処から先は何も覚えていない、何故、僕が自分のベッドで朝を迎えてるのかさえ、思い出せなかった。 ピンストライプのシャツに腕をとおし…
今日も眠れなくて、本を読んでるのに何となくテレビも付けていた。 BGMのようにテレビから音が流れる。 深夜の音楽番組だった。 俺の好きな曲。テレビではあまり流れないから、本から目を離してテレビを見る。 PVが流れてて、そのPVのストーリーが俺…
俺は、校庭の片隅で花びらの舞い散るおっきな桜の木の下に立って、見上げていた。 風があって気持ち良い。 「ふぅーっ!浪漫ちすとーはるっち!!」 俺が振り返ると、其処には優也が立っていた。 相変わらずでかい。 「やっぱぁ?そう思うだろ?」 得意げに…
このディスクに残された兄さんの遺言の中身を、おれは知らない。 けど、おれを追ってきてる奴はどうやらその中身を、知っているらしい。 このディスクの中身を俺は知りたい。 兄さんも、この中身の所為で殺された。 俺と兄さんは歳が離れてて、あまり合う機…
金色の目、白い髪、凶暴そうな口元に、黒に紅い裏地の着流し。 そして、左腕に刻まれた数字。 彼は言う。 「俺はな、人間の手で復元された鬼なんだ、だからナンバーが入ってる。馬鹿らしい話だが、本当の話だ、俺も最初は全く信じたくなかった。だって、自分…
「真下秀・・・そうだね、真下秀のままで・・・」 彼は呟いた。 あたしはあたしの肩にもたせかけられた真下の頭を撫でる。 凄くさらさらで、柔らかい髪の毛だった。 「自分に名前なんて、本当はないんだ。名前があってはいけない、そう言う決まりがある。け…
少し遅めに、家を出た。 その日は会社に行きたくなくて、はじめて無断欠勤をした。 雨が沢山降っている。 僕は傘を差してバス停で、どきどきしながらバスを待った。 誰かに見つかるんじゃないかって、わざと傘を深く差して、俯いて携帯をいじっていた。 もう…
銀色のハーモニカがある。 よくあるタイプなんだけど、私はこの音が一番好き。 はじめて聞いたのは、私があの人にあったとき。 あの人は川辺で頑張って、誰かの音楽のハーモニカ部分を一所懸命練習してたみたいだったけど、どうしても同じ場所でつかえる。 …
オレンジ色の目が、珍しいんだって。 だから、僕は人間に追われる。 僕の目は、ダイヤモンドより、何よりも価値があるんだって。 鬼の僕が、人間に追われてる。 黒の髪に、オレンジの瞳。 鬼の目は、人間とは違う色をしている。 「なぁ・・・お梅、人間に近…
巷で噂になっているある屋敷のポラロイドカメラは、自分の欲しいもの、必要なものを念写しますと実際数日後に自分の前に現れるという大変不思議なポラロイドカメラなのでございます。 しかしながら、噂で聞いただけで、私は実際には見たことがなかったもので…
「ボタンが邪魔だよ」 にっこり笑う彼の笑顔に負けて、あたしはシャツの釦を二つはずした。 「うん、それで良い」 またにっこり笑う。 さっきの不機嫌が嘘みたいに今は機嫌がいいみたい。 ゆっくりとあたしの頬に手を添える。温かい手だった。 「こうやって…
サックス・レリオットと、アリス・レノンは、一緒に住んでいる。 悪党と、その助手だから当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、俺がもっとも気に食わないのは、サックスとアリスがそれだけの関係じゃないって事だ。 確かに、アリスはとても綺麗だし、…
悪意は、伝染する。 雨が降っている。 秋の、冷たい、染み渡るような雨だった。 あたしは昇降口から出て、薄暗くなった空を見てため息を付く。 朝の天気が嘘のように、雨が降っていた。 薄暗い道を、半ば諦めながら雨に濡れて、歩く。 冷たい雨が心地良い。 …
夏も終わり、さめた夜風が鈴虫の音色と共にそよそよと草を揺らした。 月の船が、彼らの頭の上にぽっかりと夜空の一部を切り取ったかのように、白く光っている。 その、月の光で、彼らの足下の舗装の悪いアスファルトの上には、彼らの影が長く伸びていた。 蝉…
ここは世界のブラックマーケット。 何でも売ってる市場、巷で売ってるものから、やばいものまで。 世界中のものが売ってる。 場所は不定で時間も未定。 参加できるのは一部の人間だけ。 「これは幾らするんだい?」 恰幅の良いおばちゃんが、透明な容器に入…
その、真っ黒な老ネコの背中には、天使のような白い羽が生えていた。 そのネコは前から家の近所をうろついてるネコで、ぼくは勝手に「くらのすけ」と名付けていた。 紅い首輪をしていたので、どこかの飼い猫かもしれなかったが、外ネコなんてその場その場で…
「にゃこ、おにぎりと言えば!?」 「はい?」 不機嫌極まりない表情で起きあがったのが、ネコ、へんちくりんな関西弁を喋るのが、カバ。 「『はい』って、具はないで!!ちゃんと答えんかい!!」 「いや・・・いきなり、意味分かんないから・・・・」 ネコ…
「松谷さん、こんばんわ」 彼はパソコンの画面から目を離し、私を見つめた。焦げ茶色の髪と瞳は、モニターの光で怪しく光っていた。 彼はけだるそうに、ワンテンポ遅れて返事を返す。 「で?今日はどうしたんだ?」 私は、彼の頬に手を添えた。 「今日は、い…
俺が初めて古都治の存在を知ったのは、小学6年の頃だった。古都治は中学2年。その出会いは偶然ではなかった。 あいつは小学校の前の公園の箱ブランコに乗って、俺がでてくるのを待っていたらしい。どうも、母親から腹違いの弟がいると聞いて興味を持っただ…
明日も雨が降るだろう・・・きっと、明日も。 「よ、おはよーさん、にゃこ・・・どうしたん?そんな黄昏た顔して。」 こいつは最近、サングラスとバンダナをやめたばっかだ・・・やっぱりこっちのが良いのかもしれない。 昔は、有るロック歌手に似てるとか何…
「ねぇ・・・蜜雪、はさみって体に刺さるのかなぁ?」 「さぁ・・・刺さったとしても、凄く痛そうだよな。開いたまま刺さったら、じょっきんって、傷口がきれるんだぜ?考えただけで爪の間がむずむずして痛いよ。」 真下蜜雪は、手をわなわなと動かし、恐ろ…